主体性×多様性=無限の可能性 。北海道大空高等学校が描く教育の未来図

北海道の道東に位置する町立の高校でありながら、全国から生徒が集まる北海道大空高等学校。定期テストも時間割(高3)もない、従来の学校の概念を覆す独自の教育で注目を集めています。全校生徒103名の小規模校で、なぜ道外からも35%もの生徒が入学を希望するのでしょうか。「主体性というエンジンを持って自ら飛び立つ」という理念のもと、新しい学校のかたちを追求し続ける教育現場を取材しました。

学校概要

ー御校の概要と特色について教えていただけますでしょうか?

大辻校長:北海道大空高等学校は、北海道の道東に位置し、女満別空港を有する大空町の町立高校です。1学年定員36名の小規模校で、全学年合わせて103名の生徒が学んでいます。大きな特徴は全国募集を行っており、全生徒の約35%が道外から、15%が道内遠方から入学し、全体の約半数が寮生活を送っています。

本校には「ないもの5選」という特徴があります。

①定期テストがなく、単元テストを実施していること
②時間割(高3)がなく、70%が選択科目となること
③固定担任制がなく、2人担任制かつ学年ごとに担任が変わること
④厳しい校則がなく、生徒自身が適切な行動を考えられるようにしていること
⑤新設校のため歴史と伝統がなく、その分、生徒たちが主体的に学校作りに関われる余白があるということ

これらは全て生徒の主体性を育むために設計されています。定期テストがないのは自ら学ぶ力を身につけてほしいからであり、時間割がないのは自ら進路を考えてほしいからです。

私たちは、この主体性を持った人物を「飛行機人」と呼んでいます。これは外山滋比古氏の書籍『思考の整理学』から着想を得た概念で、「引っ張られて飛ぶグライダーではなく、主体性というエンジンを持って自ら飛び立つことができる人物」を意味します。

受験指導への取り組み

ー推薦入試や進学指導について、特徴的な部分を教えていただけますでしょうか?

大辻校長:本校は総合型選抜を中心に据えており、特に面接に強みがあります。例えば、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」では、過去5人が応募し全員が合格。ガーナ、イギリス、フィリピン、アメリカ、オランダなどに留学しています。今年卒業した総合学科2期生からは4名が国公立大学に進学しましたが、これも総合型選抜や学校推薦型選抜対策が充実していたからだと考えています。

清水教頭:何かを中心にやっているというよりは、生徒たち自身が考え、自分のやりたいことを追求していく中で、その先に大学進学があるというイメージです。受験のための活動ではなく、自分の興味関心に従って活動した結果として進学につながっていくという形です。

生徒に身につけてほしい力

ー生徒にどのような力を身につけていってほしいとお考えですか?

大辻校長:私たちが最も重視しているのは「主体性」です。冒頭でもお伝えた通り本校では主体性を持った人物を「飛行機人」と呼んでいます。これは他人に引っ張られて飛ぶグライダーではなく、主体性という「エンジン」を持って自ら飛び立つことができる人物を意味します。また、多様性を認め、他者の価値観や考え方を受け入れる力も重要視しています。

実際、本校の生徒アンケートでは多様性を認めることに対する感受性が高く「他人の意見を尊重する」という項目で90%以上の肯定的な回答が得られています。学力の面でも幅広い層の生徒がいますが、それが階層化されることなく、互いの個性や選択を尊重し合える環境が自然と築かれています。

清水教頭:特に100年時代を生きていく上で、自分でどのように考え、この後の人生を楽しく、幸せに送っていくかを考えられる力を身につけてほしいと考えています。その中で、今何をすべきか、その後どんな学びをしていきたいのかを自分で考えられる生徒を育てたいと思っています。

大辻校長:「主体性」を育むために、本校では「越境と探究」を大切にしています。生徒たちが、越境学習することを推奨しており、海外留学率は15.5%になります(全国高校平均1.4%)。また探究においては「社会を1㎜でも前に動かす」を合言葉に地域の問題解決型プロジェクト学習にしています。自己の興味関心に基づき、行きたい国で学ぶ、学びたい分野で探究することで、主体性を育んでいます。

特色ある教育活動

ー学校行事など、特徴的な活動について教えていただけますでしょうか?

大辻校長:例えば、本校では体育祭を年2回実施しています。これは生徒会の発案によるもので、北海道という地域性を考慮し、春夏の屋外版と秋冬の屋内版を行っています。これも新設校ならではの、生徒の主体性が発揮された例です。

来年の生徒会が体育祭を廃止すると提案した場合でも、十分な議論を経て、生徒総会で決を取って決めるという、そういう学校です。「校則の見直し」も毎年、生徒会中心に行っています。

保護者との連携や工夫されている点

ー保護者の方々との関わりや連携について、工夫されている点を教えていただけますでしょうか?

清水教頭:本校の特徴的な部分として、入学生の保護者の方々が学校の理念を深く共感した上で入学を決めていただいているケースが多いです。

生徒本人が行きたいと考える場合もありますし、保護者の方が先に本校の理念に共感して子どもに勧めるケースもあります。特に寮生活を送る生徒たちについては、入学時点で保護者との強い信頼関係が築かれているのが特徴です。

時代の変化に対応した取り組み

ーAI時代への対応など、時代の変化を意識した取り組みについてお聞かせください。

大辻校長:コンピューターやロボット、AIは24時間365日働き、人間の知識を遥かに凌駕する存在です。しかし、いずれも自ら動き出すことは現状できません。誰かにスイッチを押されて初めて動き出します。

そう考えた時、コンピューターにはなく人間にあるもので揺るぎないのは、自ら自分のスイッチを押す「主体性」です。本校の全ての教育活動は、この主体性を育むために構築されています。

今後の展望

ー今後どのような学校を目指していきたいとお考えですか?

清水教頭:新設校として「大空高校」というブランドを確立していきたいと考えています。本校の理念に「想像する可変の未来へ」という言葉がありますが、世の中が変わっていく中で、常に進化し続ける学校でありたいと思います。

大辻校長:本校の校章は可変であることが特徴です。内側の三つの楕円は、どのように回転しても大空高校の校章と看做す(みなす)という特別なルールがあります。これは、100年先を見据えた時に、学校自体もどんどん変わっていかなければならないという思いが込められています。Society 5.0の時代、未来が予測困難な中で、育むべき力も、身につけるべき力も変化していきます。そのような変化に柔軟に対応できる学校であり続けたいと考えています。

⑧記事を読んでいる保護者の方や学生様に向けたメッセージをお願いします

ー最後に、読者の方々へメッセージをお願いいたします。

清水教頭:高校選びは一つではありません。また、学びは生涯続けられるものです。そのため、教育に関心を持つことはとても大切です。自分に合った高校や大学を選ぶ際には、様々な学校の特徴を知ることが重要です。この記事を読んでくださった方には、多くの学校を知った上で、自分に合った学校を選択し、より良い人生を送ってほしいと思います。

大辻校長:都市部の多くの高校は偏差値で輪切りにされ、似たような背景を持つ生徒が集まる傾向にあります。しかし実社会は極めて多様です。本校では入学時点から多様な生徒が集まり、その違いを当たり前のものとして受け入れる環境があります。

この環境で育った生徒たちは、世界の広さと多様性を体感的に理解し、自分らしい道を選択する力が身につくはずです。教科の学習はもちろん大切ですが、それ以上に「自分はこう生きたい」という意志を持って歩める人に育ってほしい。そんな思いを持って、私たちは生徒一人一人と向き合っています。このような本校の教育に共感していただける方との出会いを、心よりお待ちしております。