和光中学校では「共に生きる教育」を教育目標に掲げ、対話や体験を重視した独自の教育を展開しています。現実社会の課題に目を向け、自己肯定感を育みながら、自己表現と他者理解を大切にする教育を実践しているのが特徴です。
生徒一人ひとりが主体的に考え、行動できる人材の育成を目指す同校の取り組みについて、亀山先生・青柳先生・井上先生にお話を伺いました。
自己肯定感を育む3つの教育の柱

ー学校の教育理念について教えてください。
亀山先生:教育目標を「共に生きる教育」としており、学習や行事、実践活動の全てにおいて対話・話し合いを大切にしている学校です。教育の柱として3つの理念を掲げています。
1つ目は「自己肯定感を育む全面発達の教育」です。一面的な価値観ではなく、生徒それぞれが持つ長所や個性を活かし、自分に自信を持てるよう支援します。
2つ目は「自己表現と他者理解を大切にする教育」です。自分の意見を持ち発表する力を育むと同時に、他者の意見も受け止めて考える姿勢を養います。
3つ目は「民主的権利行使の主体を育てる教育」です。自分自身が幸せに生きたい、楽しく安心した学校生活を送りたいという権利だけでなく、周りの人々、さらには地球全体の幸せについても思いを巡らせることができる生徒の育成を目指しています。
体験と対話を重視した特色ある教育活動
ー実際に教育理念に沿った活動やプログラム、文化活動などについて教えてください。
亀山先生:特色ある教育活動として、まず4月20日頃に運動会を実施しています。これは日本で最も早い運動会と呼ばれていますが、新入生を歓迎する意味を持っています。
2・3年生が「中学校生活はこんな感じだよ」と1年生を歓迎するために、縦割りで実施しています。その結果、学年間の仲の良さや風通しの良さにつながっています。
また、2年生の秋には5泊6日の秋田学習旅行を実施しています。農作業体験と、わらび座という民族芸能を中心とした表現者集団の踊りを学ぶという2つの大きな体験学習を行います。
1年生と3年生では、学級ごとに演劇を創り上げます。特に3年生は卒業間際に1時間の演劇を行い、クラスの総力を結集して取り組みます。
社会課題と向き合い、自分で考える力を育む授業
ー他の学校にはない独自の取り組みについて教えてください。
井上先生:私たちは受験の学習に特化するのではなく、人生をどう歩んでいくのか、地域社会や国、世界にどのように参加していくのかという点を大切にしています。
例えば2024年の授業では、トラックドライバーや宅配ドライバーの働き方について取り上げました。生徒たちの日常的なネットショッピングや、その配達が社会にどのような影響を与えているのか考えさせることが目的です。
環境問題については、COP29での議論や、フランスでの短距離フライト規制、持続可能な航空燃料(SAF)の開発など、具体的な事例を通じて地球の未来について考える機会を設けています。
また、フェアトレードの意義や、昨今のカカオ豆価格高騰による菓子業界への影響など、グローバル経済の課題についても扱っています。日本とヨーロッパでの取り組みの違いを比較しながら、日本社会をどのように作っていくべきかを生徒たちと共に考えています。
このような授業を通じて、卒業生の中には国際的な活動に携わる人材も育っています。例えば、中東の大学に進学して現地の情勢を肌で感じた卒業生や、イギリスの大学院に進学してフリー・ザ・チルドレンに加入した卒業生もいます。
授業で学んだことが、実際の進路選択や社会貢献につながっているのです。
生徒からのフィードバックを重視しており、各学期末には授業で取り上げた教材が中学生にとって適切だったか、生徒自身に評価してもらい、それをもとにカリキュラムの更新を行っています。
グローバルな視点を育む実践的な英語教育
ー英語教育において積極的に取り組んでいる内容を教えてください。
青柳先生:英語の授業では、単に文法や単語を覚えるのではなく、英語という言語を通して世界を学ぶという視点でカリキュラムを構成しています。
例えば、ブラック・ライブズ・マターの動きが始まった際には、急遽社会科の授業で奴隷貿易から始まるアメリカの歴史の学習を取り入れました。
その授業の流れのなか「公民権運動」の単元でキング牧師について学んだときに、英語科の授業でもキング牧師についての絵本を生徒と一緒に読みました。
アメリカ南部では至る所にあった”WHITE ONLY”の看板の意味や、キンブ牧師の母親が彼に伝えた”You are as good as anyone.”に込められた意味をみんなで考察しました。
”good”という身近な単語が単なる「良い」だけではなく、社会科の授業で学んだその環境を思い浮かべながら、母が息子に何を伝えたかったのか思いを馳せ、さまざまな考えや表現を出し合いました。
このように、授業の中では生徒たちの発想や社会への感性を通して、共に学んでいく場面も大切にしています。
また、発音のルールや文字と音の関係性についても深く理解できるよう工夫しています。英語科と社会科との教科横断のような授業も行い、英語を通して世界の課題や文化への理解を深めています。
地域との深いつながりを育む修学旅行
亀山先生:秋田学習旅行は46年という長い歴史を持ち、「働くこと・生き方」を考えさせる重要な機会となっています。
3日間班毎に農家で一緒に働くことを通して、自分の働きが人の役に立つということを実感します。明るくひたむきに取り組む農家やわらび座の方々とのふれあいを通して人の温かさやさしさに気づき、自分や周りの生徒の変化・成長に気づく旅となっています。
社会科や技術科で農業・食料問題を事前に学び、音楽科では世話になった農家やわらび座の方々への感謝を合唱で表現します。美術や国語の授業でも体験したことを様々な形で表現する取り組みを行っています。
文化祭に来校される農家も多くあり、生徒との再会、保護者との交流を深めています。中には生徒の結婚式に招かれるような関係性も生まれており、世代を超えた絆が築かれています。
これからの時代を見据えた教育の展望
ー今後、より強化していきたい点や取り組んでいきたいことを教えてください。
亀山先生:生徒たちの実体験が減少している中で、体験を通して何を学んでほしいのか、そこから生まれる疑問や考えをどう発展させていくのかを常に考えています。
日常の学校生活を丁寧に作り上げながら、新しいことへのチャレンジも大切にしていきたいと考えています。
ー最後に、記事をご覧の保護者様やお子様へメッセージをお願いします。
亀山先生:自分の頭で考え、主体的に行動できる人に育ってほしいと願う保護者の方々に、ぜひ和光中学校をお勧めしたいと思います。生徒自身が問いを持って学んでいきたいという意欲を刺激する環境づくりを心がけています。
井上先生:本校の特徴の一つは、教員と生徒の距離の近さです。生徒手帳には子どもの権利条約を掲載しており、生徒たちは自分の意見や考えを先生に気軽に伝えることができます。この関係性が、大人への信頼を育む大切な3年間となっています。
また、授業で学んだことが家庭での会話のきっかけとなり、親子の対話も自然と生まれています。生徒たちは学校での学びを家族と共有し対話することによって、考える力や表現力がさらに磨かれていきます。
社会の課題に向き合い、自分で考え、対話を重ねながら成長していく。そんな学びの環境で、これからの時代を生き抜く力を身につけてほしいと願っています。