デジタル全盛時代の現代において、手書きの文字が持つ力や魅力を再認識する動きが高まっています。その流れの中で注目したいのが、ただ字を上手に書くだけでなく、書道を通して「心の解放」や「自己表現」を大切にしている『書道教室たかの』です。
主宰の高野幸子先生は、幼少期から書道を学び続け、約19年の会社員生活を経て独立。現在では子どもからシニア世代までの生徒が通う教室を運営されています。その特徴は、画一的な指導ではなく、一人ひとりの個性を尊重した関わり方にあります。
高野先生が大切にしているのは「来て楽しい、帰るときは前向きな気持ち」というコンセプト。書道の技術だけでなく、メンタルセラピー的な要素も取り入れた独自のアプローチで、生徒たちの心に寄り添います。日本の伝統文化である書の世界を通して、現代人が忘れがちな「自分と向き合う時間」を創出する高野先生の教室づくりに迫ります。

「型」より「個性」—— 老若男女が集う自由な学びの場

ー高野先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは『書道教室たかの』の概要について、どういった方を対象にしていて、どのような指導を行っているのかを教えていただけますか?
高野幸子 主宰(以下、敬称略):対象は幼児から大人まで、老若男女問わず、書道や文字を書くことに興味をお持ちの方すべてです。
指導方法については、一人ひとりの個性に合わせることを大切にしています。基本的には私がお手本を用意し、それを書いていただくことで自然に文字が上手になっていく、という流れで指導しています。
ーホームページを拝見したところ、メンタルセラピー的な要素も組み合わせた書道レッスンもされているようですが、そちらについても教えていただけますか?
高野:通常の毎週開催しているクラスとは別に、リクエストがあればワークショップ形式で開催しているものがあります。よく行っているのが「大きい筆で大きな紙にみんなで書いてみよう」という、心と体を使って自分を解放していくクラスです。
このワークショップは約1時間半で、1人からでも受け付けていますが、基本的にはグループレッスンになります。最初は思いのままに自分の書きたいものをどんどん書いていただきます。文字を上手に書きたい方には基本的な指導もしますが、そうでない場合は目標や今年頑張りたいことなど、思いつくままにたくさん書いていただくのです。
グループレッスンでは、思ったことを自由に話しながら手を動かしていただきます。すると会話の中から「私もそうだった」「自分も実はこうしたかった」といった思いが、参加者それぞれの中からどんどん湧き出てくるんです。それを半紙にどんどん書いていくと、集った皆様の共通の『想い』というものが湧き上がってきます。
今までの開催の様子を見ていると、強制的に意見を引っ張る人はおらず、その会話の中から自然発生的に共感と共有が生まれ、「皆さんの共通の目的はこれだったんですね」となります。例えば「継続は力なり」であったり、「心に余裕を持ちたい」であったり。「今年は天真爛漫に過ごしたい」というテーマが出れば、参加者全員でそれを大きく書いたりします。このようなメンタルセラピー的なワークショップは単発で開催しています。
コロナ禍が運んだ転機 —— 会社員から書道家への華麗なる転身

ー高野先生がこちらの書道教室を開かれた経緯やきっかけを教えてください。
高野:書道との出会いは幼少期にさかのぼります。一度始めたら不思議と辞めることなく、自然と私の人生に寄り添い続けてきたんです。筆を持つことが日常の一部となり、大学も書道系の学部に進学しました。しかし当時は「教室を開く」という選択肢は雲の上の存在のように感じられ、卒業後は一般企業に就職する道を選びました。
そこから約19年間、会社員として過ごす中でも、書道は私の中で静かに息づいていました。そんな折、知人から「新会社を立ち上げるから力を貸してほしい」という誘いがあり、これは人生の新たなステージへの扉が開いたと感じたんです。
しかし2020年、まさに転職しようというその瞬間に、世界はコロナ禍に包まれました。予定していた海外関連の事業は凍結され、私の所属予定だった子会社も実質的に機能しない状態に。思いがけない形で進路を閉ざされた瞬間でした。
そのとき心の奥底から湧き上がったのは、「これは運命の後押しではないか」という思い。長年温めていた「いつか自分の書道教室を」という夢が、突如として現実味を帯びてきたのです。コロナという予期せぬ障壁が、皮肉にも私の人生を本来進むべき道へと導いてくれました。こうして2020年、『書道教室たかの』を開くことになりました。
「継続率の高さ」が証明する —— 来て楽しい、帰って前向きになる空間づくり

ー他にも書道教室はたくさんありますが、『書道教室たかの』ならではのアピールポイントを教えてください。
高野:一度入会された方が辞めることは少なく、多くの方が継続して通ってくださるのが特徴です。
そのために、教室に来て楽しい、そして楽しい気持ちで帰っていただける雰囲気づくりを心がけています。字が思うように書けなくても、心が前向きになって帰っていただけることを大切にしています。
ー先生のプロフィールを拝見すると、メンタルケア等の資格もお持ちで、そういった知識が生徒さんとの関わり方に活かされているのではないかと感じました。これまでの経験が教室運営に影響していますか?
高野:ありがとうございます。子どもの教室や大人の方の教室の通常教室では、メンタルケアの資格等は全く意識せず、わたし自身も皆さんの書かれるている書に向き合い楽しみながら生徒さんへ接しています。ですが知らず知らずのうちに経験が生きているのかもしれません。生徒さんとお話をする中で、ある考えに対して「こういう見方もあるかもしれませんね」と別の視点を提案すると、思いもよらない気づきが生まれることがあります。
そういった対話を通して、多くの方が前向きな気持ちで帰られるのだと思います。その時や後日などに、「言ってもらって良かった」など、お感じになられた思いを伝えて頂けた時には、メンタルセラピーや様々な経験を積んできて良かったなと思います。
ー生徒さんが前向きになれるよう、高野先生が心がけていることはありますか?
高野:まず大切にしているのは、生徒さんの言葉をしっかり受け止めることです。自分の考えを押し付けるのではなく、それぞれの環境や背景を理解した上で、一人ひとりに合わせた対話を心がけています。最終的には皆さんが良い方向に進んでいけるよう、寄り添うようにしています。
押し付けない指導が開く可能性 —— 生徒の「良さ」を最大限に引き出す哲学

ー生徒さんたちに指導する際に、高野先生が大切にしている方針があれば教えてください。
高野:指導では、何よりもその方の良さを活かすことを大切にしています。
もちろん書道には「これが正しい」「これが美しい」という基本の型がありますので、それはお手本として示しています。
しかし、その型に無理に当てはめるのではなく、私なりの「良いお手本」として提示し、生徒さんそれぞれに受け取っていただく形を取っています。教書本を使って正確に書けば級が上がることもありますが、それだけに従う必要はありません。自分の思うように書きたい方には、むしろ型を乗り越えて、自分らしい表現を見つけてほしいと思っています。
このように個性を尊重し、頭ごなしに否定せず、一人ひとりの良さを伸ばす指導を心がけています。これは子どもも大人も同じで、質問に丁寧に答える一方で、静かに集中したい方にはその空間を大切にするなど、それぞれに合わせた関わり方をしています。
文字の向こう側にあるもの —— 書道が育む集中力と自己対話の時間

ー先生のホームページには「書道で得られるもの」としていくつか紹介されていましたが、具体的にどのようなものがあるのか教えていただけますか?
高野:書道を通して得られるものは本当に多岐にわたります。
まず挙げられるのは‟集中力”です。一つの文字に向き合うことで、深い集中状態を経験できます。
次に‟バランス感覚”や‟空間把握能力”も養われます。真っ白な紙面のどこにどう配置すれば調和が取れるか、という感覚が日々の練習から自然と身についていきます。
また、正座して書くという経験も貴重です。現代では特に子どもたちはあまり正座をする機会がなく、姿勢が崩れがちです。書道を通じて正しい座り方や姿勢を学ぶことができます。
さらに、文字を書くという行為を通して自分の思いを表現することで、自分自身の内側にあった気持ちに気づくことがあります。不思議なことに、書いたことが実際に叶うという経験も私自身何度もしています。
書道では一つのことに集中するので、自分との対話も自然と生まれます。文字に向き合っているだけなのに、もやもやしていた気持ちがすっきりと整理されることがよくあるんです。一つのことに集中する時間を持つことは、現代社会では特に貴重だと思います。
日常生活では「自分のための時間を作ろう」と思っていても、なかなか実現できないものです。書道教室に通うことで、定期的にそういう時間を確保できるのも大きなメリットではないでしょうか。
教室から通信まで —— ライフスタイルに合わせて選べる多彩なプログラム

ー提供されているコースやプランについて簡単に教えていただけますか?
高野:まず小学生・中学生向けの「こども書道教室」があります。これは月3回、1時間から1時間半程度のレッスンで、月謝は3,300円です。教書本に沿って学ぶ場合は別途本代がかかります。

「大人の書道教室」は月2回で3,300円、月3回で4,400円となっています。こちらも教書本を使う場合は本代が別途必要ですが、私が用意したお手本で硬筆やボールペン字なども選んで取り組むことができます。
先ほどお話した、自分の目標や願いをどんどん書き出していく「夢を叶える書道会」というクラスもあります。内容によって料金は異なりますが、リクエストに応じて様々な内容で開催しています。
さらに「通信講座」も提供しています。1回ずつのお申し込みも可能ですが、6回分前払いしていただければ継続してご利用いただけます。

ー通信講座は添削形式なのですね。書道は先生の筆遣いなどを間近で見ないと上達しにくいのではと思いますが、通信講座でも効果はありますか?
高野:効果は十分にあります。現在、海外在住の日本の方がボールペン字の通信講座をご受講されています。メールでお手本や作品をPDF化したものや実物の郵便でのやり取りで添削指導を行なっております。添削には解説文を加筆しており、読んで実践してくださっていて回数を重ねるごとに上達しておられます。
このように時間と場所を問わず、ご自身のライフスタイルを大切にしながらどんな方にも書道を楽しんでいただけるのが通信講座の魅力です。現在受講して頂いている通信講座は、ボールペン字の指導だけで無く、半紙での毛筆の指導、小筆での実用的な書の指導もリクエストに合わせて行なっています。
添削は、基本的には郵便のやり取りでの指導になります。肉筆の方がその方のペンの動き(筆の動き)や筆圧などお書きになられている様子が読み取れるからです。ただ、先ほどお伝えした海外在住の方はどうしても郵送に時間がかかるため、直接の郵送もしながら、メールでPDF化したお手本や課題提出のやり取りも必要に応じて対応しています。
添削の部分や、文章での解説で足らない時は、動画などで実際に書く様子を撮影したものをお送りして参考にして頂くこともあります。
デジタル時代だからこそ —— 手書きの温もりを未来へつなぐ布教活動

ー今後さらに力を入れていきたいことや、新たに取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
高野:「夢を叶える書道教室」のようなワークショップをもっと開催していきたいと考えています。今年(2025年)は3月に別のお寺とコラボレーションして開催し、大変盛況でした。
気軽に筆を取ってもらい、日本の伝統文化の素晴らしさを少しでも感じていただけるような活動を広げていきたいと思っています。書道という文化を次の世代に伝えていくことが私の使命だと感じています。
「共感する方と共に歩みたい」 —— 高野先生から未来の生徒さんへのメッセージ

ー『書道教室たかの』への入会を考えていらっしゃる方々へ、高野先生からのメッセージをお願いします!
高野:書道やお習字というと堅苦しいイメージをお持ちかもしれませんが、実際にはロゴデザインや筆文字など、現代社会でも様々な形で活かされています。AIやデジタル技術が発達している今だからこそ、人の手で書いたものには特別な魅力や伝わる力があると実感しています。
デジタルの良さも認めながらも、日本に古くから伝わるこの文化を大切に守り、次の世代へつないでいきたいと考えています。書道の持つ力や楽しさに共感してくださる方がいらっしゃったら、ぜひ一緒に書道を楽しみましょう!