「50歳を過ぎたら実力がストップし、伸びしろがないというのでは寂しい」 ── そんな想いから生まれた『極真空手清武会』は、従来のフルコンタクト空手に古伝の空手技術や中国拳法の要素を融合させた、まったく新しい稽古体系を確立しています。
筋力や体力に依存するのではなく、技術と身体操作によって生涯にわたって上達し続けることができる空手。それは60代、70代になってもピークを迎えることができる、真の意味での「生涯武道」です。
今回は大泉学園支部長の丸林武一郎さんに、力に頼らない技術習得の秘訣、子供たちへの礼儀教育の重要性、そして他の道場では体験できない清武会独自の魅力について詳しくお話を伺いました。
フルコンタクトと古伝技術が融合した革新的な稽古体系

ー丸林さま、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは『極真空手清武会』について、概要を教えてください。
丸林武一郎 支部長(以下、敬称略):『極真空手清武会』は、西田幸夫師範が創立した極真空手の流れを組む空手道場です。フルコンタクト、実際に相手に当てる空手を中心に稽古しておりますが、西田師範が学ばれた大東流合気柔術や中国拳法を取り入れ、力を使わない技術の習得も目標としております。
対象となる生徒は、少年部が5歳から小学生まで、中学生以降が一般部となっております。幼稚園・小学生の少年部に関しては、まず礼儀、最低限の礼儀作法から始めます。相手に対して、稽古していただいた人達に礼をするという基本的なところをまず習得し、その後身体操作を中心とした稽古を行っております。
『清武会』の特徴は、大会や試合を目指すよりも、身体操作や礼儀を中心としていることです。若い方であれば大会を目指したり試合に臨むのも良いのですが、弊道場は主に40歳以上の大人の方が多いため、ウェイトトレーニングやスパーリングよりも、技術を中心とした身体操作に重点を置いています。
大会中心の空手に疑問を抱いた創設者の想い

ー西田師範が『清武会』を立ち上げられた経緯やきっかけについて教えてください。
丸林:西田師範は元々、極真空手で神奈川・東京城北地区をご担当されていました。大山倍達総裁が亡くなって組織が分かれていく中で、大会中心となっていた極真空手の在り方に疑問を持たれました。そこで今後は60歳をピークに持っていくような稽古体系を作りたいということで、極真空手という流派はそのままに、『清武会』という組織を立ち上げられました。
清武会の名称は、正しいという意味の「清」と武道の「武」という字なのですが、元々中国にあった拳法の組織名を参考に、清武会となったと認識しています。ですから、中国拳法や大東流など、力を使わない技も加味しながら、空手本来の古伝の技術を使っていこうという考えです。空手そのものも中国から来た技術ですし、唐手術も中国から来たものです。力を使わない技術を60歳をピークに持っていくような形で練習したいということで、こういった組織を立ち上げられました。
70歳でピークを迎える「脱力の技術」とは?
ー大東流や中国拳法を取り入れた「力を使わない技術」について、詳しく教えてください。
丸林:私も20代の頃は、フルコンタクト空手で大会に出場し、ウエートトレーニングやスタミナトレーニングを重ねて、実際に相手を殴る蹴るという激しい稽古をしておりました。しかし考えてみてください。40歳、50歳、60歳、70歳になって、そういった体力勝負の稽古が続けられるでしょうか? 答えは明らかに「無理」です。
実際に海外の清武会支部長が50歳を過ぎた時、西田師範に「このままずっと体力勝負の稽古を続けるのでしょうか」と相談されました。西田師範の答えは「そんな必要はない」というものでした。体力に頼る稽古から技術中心の稽古に切り替えることで、生涯を通じて空手を続け、さらに向上し続けることができる。50歳を過ぎたら実力がストップして伸びしろがないなんて、あまりにも寂しい話ではありませんか。
では、具体的に「力を使わない技術」とは何か。まず「脱力」という考え方があります。これは単に力を抜けば良いというだけではありません。腕や足の局所的な筋力に頼るのではなく、体全体を連動させて力を生み出すということです。
さらに重要なのが「相手の力を利用する」技術です。例えば、相手が押してきた時、その力に逆らって押し返すのではなく、相手の力の方向を少しずらしてバランスを崩す。相手が引いてきた時は、その動きに合わせてさらに引き込む。こうした技術は、相手との対人稽古でないと身につきません。
この考え方は他の古伝武術にも通じるものがあります。若い時期に体力のピークを迎える従来の武道とは違い、技術と経験が蓄積される60代、70代にピークを迎える。これこそが真の「生涯武道」だと考えております。
「単なる踊り」を超えた型の真の意味

ー他の空手道場にはない、『清武会』ならではのアピールポイントを教えてください。
丸林:主に極真空手の流れを汲むフルコンタクト空手の道場は、突く・蹴るということを中心としているところが多いのですが、弊道場のアピールポイントは、古伝の空手の型技術を汲み取って稽古を行っているということです。
基本稽古や移動稽古、型稽古をしっかり行います。空手の型はオリンピックなどでもよく見られますが、型だけをやっていると単なる踊りになってしまいます。そこで、型の中にある技を解釈しながら稽古しております。これが他の空手道場やフルコンタクト空手道場との違いだと思います。
寸止め空手の道場では、古伝の空手の型をやっているところもあると思いますが、弊道場との違いは、フルコンタクトの良い部分、実際に当てるということを取り入れていることです。もちろんサポーターを付けて、稽古の際には怪我をしないようにしていますが、実際に当てないと間合いの感覚がなかなか掴めませんので、寸止めではなくフルコンタクトを採用しています。
隠された技を読み解く「型の解釈」の奥深さ

ー型の解釈について、もう少し詳しく教えてください。解釈を理解することで技の威力なども変わってくるのでしょうか?
丸林:空手の型、特に古伝の型には関連する型があり、三戦(サンチン)や転掌(テンショウ)という型があります。これらは体をいかに使うかということを教えてくれます。西田師範は「統一体」という表現を使われていますが、腕だけでなく体全体を使った技を身につけるということです。
型の解釈において重要なのは、古伝の型は沖縄で作られたものが多く、見た目だけでは技の意味が分からないように隠されているということです。どういった攻防を練習しているのかが他の人に分かってしまうと、それに対する対抗策を作られてしまうため、あえて技を隠しているのです。
しかし、型だけをやって見た目だけを真似していると、隠された技は結局見えないし習得できません。ですから、対人稽古でこの型の意味はこういう技ですということを伝えています。初心者の場合は最初は動きの見よう見まねで形だけですが、その型ができるようになったら、本当はこういう解釈ですよということを教えていきます。見た目だけでは分からないものです。
ー筋力が衰えてきた60代の方でも、技の解釈をしっかり理解していれば、体力で勝る相手にも勝てる可能性があるということでしょうか?
丸林:その通りです。空手では「一撃必殺」とよく言いますが、試合では安全な部位を強く叩くということになっていますが、本来の一撃必殺というのは、鍛えても耐えられない部位、つまり急所を突くということです。具体的には目やのどなど、他にも急所はありますが、相手がどんなに筋肉質であっても、目やのどは鍛えることができませんので、そういった部位が本来の空手の対象です。
ただし、試合で使ったら大変なことになりますので、もちろん実際には使いませんが、空手という武術としてはそういった部分があります。ですから、年を取っても勝てる要素があるというのは、そういうところにあると思います。
強さの前に礼儀あり〜心を育てる指導方針

ー道場生を指導する際に、特に意識していることや方針があれば教えてください。
丸林:先ほどもお話ししましたが、子供たちにはまず礼儀、挨拶をきちんとできるということを第一としています。そして身体操作を重視しております。強くなることや筋力をつけて試合で強くなることよりも、まずは礼儀と身体操作です。子供の時から体全体を使えるようになってもらいたいと思っています。
ですから、子供たちには敢えて見た目にも派手な技をやらせることもあります。身体操作、飛んだりといったことも含めて、体全体を使えるようになってもらいたいと思っているからです。
大人に関しては、先ほど申し上げたように、若い方であれば試合を目指してウエートトレーニングやスタミナをつければよいのですが、弊道場は主に40歳以上の方が比較的多いので、古伝の空手の型を通じて、さらに西田師範が習得された大東流や中国拳法の考えも踏まえて、脱力した技ができるよう技術的な面を求めていきたいと思います。
子供と大人が一緒に学ぶ独自のカリキュラム

ー道場で提供しているコースやプランについて教えてください。
丸林:特にコースというものは設けておりません。以前は子供だけの少年部と一般部に分けていたのですが、現在は一緒に稽古をさせています。敢えて大人と子供が一緒に稽古しております。子供たちだけですと、どうしても礼儀などが身につきにくいのです。決して子供たちが怠けているということではありませんが、大人の人が一緒にいると、大人の真似をするということもありますので、一緒に稽古しております。
ただし、時間配分だけは調整しています。全体で1時間半の稽古時間ですが、子供たちは1時間で終わるようなカリキュラムにしています。一緒に稽古しているのですが、子供たちが1時間で終わった後、大人はさらに30分延長して、空手の逆技なども含めて稽古しております。ですから、カリキュラムとしては一つですが、子供と大人を一緒にやりながら、時間だけ大人が30分延長するという形です。
「相手を敵にしない」武道精神が子供たちを変える
ー礼儀について度々お話に出てきましたが、空手を学ぶことで子供たちにどのような良い変化が現れていると思われますか?
丸林:基本稽古や移動稽古という集団で行う技と、対人で行う技、突いたり蹴ったりを受けて返すといったものがあります。弊道場では敢えて逆技なども教えているのですが、子供たちには対人稽古の前後、一つの技を行った後に必ず礼をさせています。
空手そのものは相手を突いたり蹴ったりする、言葉は悪いですが暴力的な側面があります。しかし、それを敢えて受けて稽古し、それに対して感謝の気持ちを込めて礼をするという考えがあります。空手や日本の武術は、昔は相手を倒すことが目的でしたが、武道・武術が発達するにつれて、相手をいかに敵にしないようにするかという発想が生まれました。
先ほど申し上げた大東流や中国拳法では、相手を痛めつけて怪我をさせる技だけでなく、相手を単に押さえつけたり、関節を固めてそこで終わらせるという発想もあります。つまり、相手を潰すのではなく、人として相手に対して礼を示し、敵として見なさないようにするという考えが武術の発達とともに生まれ、やがてそれが武道になったと思います。
そういったことを踏まえて、子供たちには暴力的な面である突く・蹴るを行いながらも、相手を敵として見なさないよう、感謝の気持ちを持って礼をするよう指導しています。もちろん幼稚園の子たちには型と基本的な挨拶だけにしていますが、小学生になってくると段々と理解できるようになってきます。

ー強くて心優しい、相手を思いやれる子が育ちそうですね。
丸林:そういったことを目指したいと思っております。
支部間連携で広がる稽古の可能性
ー今後、より強化していきたい点や新たに取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
丸林:『極真空手清武会』は他の支部も東京などにありまして、たまに合宿という形で一緒に稽古をしているのですが、そういった連携をより深めていきたいと思います。先ほど申し上げた子供たちの組み手の練習なども、他の道場と一緒にやっていけたらよいと思います。
脱力を使った技なども、同じ道場だけでやっていると慣れ合いとまでは言いませんが、お互いの癖が分かってしまいます。他の清武会支部の方々とそういった交流ができればと思っています。
生涯続けられる空手を求める方へのメッセージ

ー最後に、『極真空手清武会』への入会を考えている方々にメッセージをお願いします!
丸林:『極真空手清武会』は、フルコンタクト空手を中心とした稽古体系です。しかし、それだけでなく大東流・中国拳法のエッセンスを取り入れながら、力を抜いた技、体全体を使った「統一体」と申し上げていますが、そういったところを目指しております。
ですから、大人の方には60代をピークとする、生涯空手ができるような形にしていきたいと思います。子供たちには、まず礼儀と身体操作、体全体を使えるような伸び伸びとした稽古をしております。
決して厳しく激しい稽古ではありませんが、身体操作や技術を中心としております。そういったところを求めている方は、ぜひ清武会をよろしくお願いいたします。