ミクロネシア連邦をはじめとする太平洋の島々で、伝統文化の記録・継承に取り組むNPO法人パシフィカ・ルネサンス。
現地の人々との深い繋がりを大切にしながら、SNSを活用した若者への発信や教育教材の開発など、独自の視点で活動を展開しています。
今回は当団体の活動について、代表の長岡拓也さんにお話を伺いました。
活動内容
ー まずどういった方を対象にどのような活動をされています?
長岡さん:主に太平洋の島々、特にミクロネシアの現地の人々を対象に活動を展開しています。
失われつつある伝統文化の記録、インターネットでの発信や啓発活動、教育現場で活用できる教材の作成、さらには現地政府への技術支援など、多岐にわたる取り組みを行っています。
設立の経緯・きっかけ
ー この活動を始めたきっかけや経緯について教えていただけますか?
長岡さん:日本で大学を卒業して、1990年代前半にJICAの海外協力隊としてミクロネシアで3年間活動していた際、何百年、何千年と受け継がれてきた民族の英知である伝統知識や技術が、近代化の波の中で記録もされずに、失われている現状に直面しました。
若者たちの関心が、アメリカの音楽、映画、教育に向かう中で、お年寄りが持つ民族の知識や技術への興味が失われ、文化の継承が途絶えつつある状況を非常に残念に感じたことが、活動を始めるきっかけとなりました。
その後、将来的に太平洋の島々で文化的な分野で国際協力がしたいと考え、ニュージーランドの大学院に留学しました。
帰国後、問題意識を共有する協力隊OBや研究者と一緒にNPO法人を2014年に設立しました。
特徴やアピールポイント

ー 具体的な活動内容について教えてください。
長岡さん:設立当初から続けている重要な活動の一つが、口頭伝承の記録です。
もともと文字を持たない社会であったミクロネシアでは、伝統的な情報は全て口承で代々継承されてきました。
現在は情報伝達が行われなくなってきているため、お年寄りを訪ね、神話や伝承、昔の習慣や歌、第二次世界大戦の体験談などをビデオで記録し、500本のビデオをYouTubeで若い世代に向けて発信しています。
また、本来コミュニティや家族内で伝えられるべき民族の知識を、学校教育を通じて伝えることの重要性も感じており、ユネスコの助成金を活用して3つの離島で歴史の教科書的な教材の作成も行いました。
さらに、現地政府の文化財の保護を行う部署のスタッフは、専門的な教育を受けていないため、技術協力を行っています。
具体的には、世界遺産登録や史跡公園整備に対して助言や指導を行ったり、共同で伝承の記録、昔話の朗読をしてラジオ番組の制作なども手がけたりしています。
くわえて、現地の機関で活用されていない伝統文化を記録した映像や録音資料をシェアしていただいて、YouTubeで公開しています。現在、3機関からの1200本のビデオを公開しています。
私たちのYouTubeでは、1800本のビデオを公開しており、登録者数は1万5千人、毎日3000アクセスがあります。
活動への想いと意識していること

ー 活動をされる上で大切にされていることや、特に意識していることはありますか?
長岡さん:私が協力隊員としてミクロネシアの島に行ったのが、30年前になるのですが、当時と比べると、ライフスタイルがかなり変化していて、人々が知っている伝統文化に関する情報が減っているのを感じます。
私たちが活動している島では、お年寄りほど持っている伝統的な知識や技術が、広く深いので、まず現在のお年寄りの世代からできるだけの情報を記録して、次世代に伝えたいと考えています。
現在、記録から教育に重点を移していく時期かなと考えており、現地の若い世代へより広く情報を届けることを重視しています。
現地でもSNSやモバイル端末でのコミュニケーションが盛んに行われているため、FacebookやYouTubeなどのプラットフォームを活用して、効果的な情報発信を心がけています。
また、SNSを使う層に対しては、すでに一定の効果や支持を得られていると思うのですが、私たちの発信が届いていない層へ情報を届ける必要性も感じています。
今後のビジョン・展望
ー 今後新たに取り組んでみたいことや、将来的なビジョンについてお聞かせください。?
長岡さん:今後、学校教育の中で伝統文化を教える重要性が増していくと思われるので、それを支援するような活動を行っていきたいです。
また、携帯電話の普及が進んでおり、インターネット、特にSNSを使っての伝統文化の教育やその重要性の啓発活動に力を入れていきたいです。
若い人々とが自分たちの文化と歴史を学ぶ機会が限られているので、それを支援し、彼らが誇りを持ってくれることにつながればと考えてます。
最近では、若い世代の間でSNSを通じて自分たちの文化を発信する動きも出てきており、そうした変化の兆しを大きな流れにしていきたいと考えています。
読者の方へのメッセージ
ー 活動に興味を持たれた方へメッセージをお願いできますか?
長岡さん:私たちが活動の重点を置いているミクロネシアは、戦前に日本が統治していて、「南洋群島」と呼ばれていた地域です。
日系人も多く、現地の人々は日本に対して深い親近感を持っています。
しかし、日本ではそうした歴史的なつながりは知られておらず、海を隔てた隣国にも関わらず「近くて遠い国」となっています。
島の人たちは、今は貨幣経済が浸透していますが、作物を作ったり、漁に出たりして、豊かな自然と調和しながら、のんびりとシンプルな生活を送っています。
彼らは、とてもフレンドリーで、経済的には豊かではないのですが、人と人との結びつきの強いの村社会で助け合いながら、生きています。
この魅力的な地域に、より多くの方々に興味を持っていただければと思います。
いろいろやるべき、またやりたい活動はあるのですが、太平洋の島々での活動や文化的な分野への支援は、途上国支援の中でも優先順位が低く置かれがちで、資金調達が大きな課題となっています。
私たちがアクションを起こさなければ、永遠に失われてしまう太平洋の島々の文化遺産を、将来の世代に継承する私達の活動に、ご協力いただければと思います。
現在、私たちの活動への支援方法として、金銭的な寄付だけでなく、不用品の寄付など様々な方法を用意しています。
私たちの活動に賛同していただける方は、ぜひともご支援をよろしくお願いします。詳しくはホームページをご覧ください。