子育て世代の食育支援から高齢者向けの健康クッキングまで、幅広い世代に向けて食育活動を展開するNPO法人ほっぺの会。
子どもたちの食育活動を中心に、料理を通じて家族の絆を深め、生きる力を育む取り組みを行っています。
設立のきっかけとなったご自身の子育てでの経験から、現在の活動に至るまでを代表の伊藤惠さんにお話を伺いました。
0歳から100歳まで、人生100年時代の食育をサポート

ー まずどういった方を対象にどのような活動を行っていらっしゃるのかお伺いできますか?
伊藤さん:0歳から100歳まで、それぞれの方々が豊かな人生を歩んでもらうための食と心の健康についてサポートさせていただいています。
主な活動として、2、3歳児の親子クッキング、園児とパパのクッキング、そして小学1年生から4年生を対象としたジュニアクッキングマイスターなど、食育クッキングを実施しています。
内容には必ず「食の大切さを知る食の学び講座」を組み込んでおり、クッキングと組み合わせて実施しています。
特徴的なのは、単なる料理教室ではなく、必ず「食の大切さを知る食の学び講座」を組み込んでいることです。
また、出張講座として、一般向けや「俺の飯は誰が作る」をコンセプトに男性向けクッキングなども展開しています。
子どものアトピーがきっかけで気づいた食育の重要性
ー この活動を始められたきっかけだったり、ご背景についてお伺いできますか?
伊藤さん:私自身が3人の子育ての中で、2人の子どもが重度のアトピー性皮膚炎を発症したことがきっかけです。
様々な病院を巡り、治療を試みましたが、最終的に気づいたのは5大栄養素のバランスを整えることの重要性でした
そこで、「体は食べ物でできている」という理論に基づき、丈夫な皮膚を作るための食事、バランスの取れた食事の重要性を学び始めました。
私は食物学科の出身なのですが、卒業時の栄養学と、結婚後の平成時代の栄養学では大きく進歩していたんです。
この学びの面白さに魅了され、さらに深く勉強を重ねていきました。
この学びの過程で、「これは病気になってから知ることではなく、誰もが生きている間に知っておくべきことだ」という言葉に強く共感し、自然と周りの人々に食育の話をするようになりました。
最初は別の組織で活動していましたが、6年悩んだ末、自分の価値観に合った形で食育を広めたいと考え、ほっぺの会を設立しました。
地域の自治センターでの講座からスタートし、参加者の「毎月学びたい」という声に応える形でほっぺの会を立ち上げました。
時代の変化に応える食育の形

ー お子様が体験しながら学ぶという方法を取り入れられた理由はどういったところでしょうか?
伊藤さん:2017年頃から女性の社会進出が進み、ワークライフバランスの重要性が高まってきました。
24時間という平等に与えられた時間の中で、家事は男女が共に担っていく必要があります。
そこで私たちは、子どもたちも家族の一員として「家事シェア」に参加できる方法を考えてきました。
実際に、私自身の経験からも、子どもは大人が考える以上にできることがたくさんあることを知っていましたし、「子どもでも十分にできる」という確信があったんです。
子どもたちの可能性を引き出す食育の力
ー この活動をされる中で、一番のアピールポイントはどういったところだとお考えですか?
伊藤さん:子どもたちは、大人が考えている以上の可能性を秘めています。
ほっぺの会の講座を通して、そのことを私たち自身が子どもたちから教えてもらっています。
初めは「できない」と言っていた子どもたちが、包丁を使って調理ができた時の達成感を通じて、どんどん笑顔があふれていく姿を見られることが最大の魅力です。
特に、園児とパパのクッキングでは、普段あまり関わりの少ないパパたちが、子どもの新しい一面を発見する機会になっています。
「こんなに長時間集中して楽しそうにする姿を見たことがなかった」という感想をいただくこともあり、最初は奥さんに言われて渋々参加したパパが、次回は自ら申し込んでくれるようになることも。
また、小学生の講座では、家族の一員としての自覚が芽生え、自己肯定感が高まっていく様子も見られ、食を通じて、子どもたちの成長や可能性の広がりを実感できる場となっています。

人とのつながりを大切にした活動展開
ー この活動をされる中で、どんなことを大切にされてたり、意識してらっしゃることは何かありますか?
伊藤さん:ほっぺの会の根本にあるのは「人を大切にする」という考えです。
人との繋がりがあってこそ、人は成長し、豊かな人生を送ることができると考えています。
スタッフ同士はもちろん、参加者一人一人のニーズに応えることを心がけています。
時には「駄目なことは駄目」と言える関係性も大切にしており、それには信頼関係の構築が不可欠です。
この「人を大切にする」という価値観を常に意識しながら活動を進めています。

広がる可能性、深まる学び
伊藤さん:講座を通じて、子どもたちの好き嫌いが減ったり、バランスの良い食事への理解が深まったりする変化もありました。
2、3歳児の保護者の最大の悩みである好き嫌いとバランス食の問題も、子ども自身が料理を体験することで、「嫌いなものじゃなかった」という発見につながることが多いのです。
さらに、予想外の場面で学びが活きることもあります。
例えば、お母さんが病気になった時に、小学生の子どもが朝晩の食事を担当し、家族で協力して困難を乗り越えられたという話も聞いています。
また、男性向けの料理講座に参加したおじいちゃん世代の方々も、最初は「難しいことはできない」と言っていましたが、徐々に一品ずつ挑戦するようになり、孫が喜ぶ顔を見て、さらにやる気を高めていくという好循環が生まれています。
将来への展望:より多くの人々へ届ける食育の輪
ー 今後の展望についてお聞かせください。
伊藤さん:現在、4人の講師が活動していますが、講座の需要が高まり、講師が不足している状況です。
お手伝いのスタッフは毎年増えていますが、講座を担当できる講師の育成が課題となっていますので、講師育成講座を再開する予定です。
1人より2人、2人より3人、4人と、できる講師を増やしていくことで、より多くの子どもたちの可能性を広げていきたいと考えています。
また、現在は岐阜県を中心に活動していますが、将来的には他の地域でも活動できる仲間を増やしていきたいと思っています。
食育で築く、より良い未来へ

伊藤さん:ほっぺの会では10歳までの生活習慣作りが重要と考え、主に小学4年生までを対象としています。
この時期に身につけた知識は、中学・高校生になって親元を離れる機会が増えても、自分で判断できる力となります。
例えば、私の子どもが独立した時、調味料選びに気を配っていたことに驚きました。
黒砂糖を選ぶなど、講座で学んだ知識が自然と生活に活かされていたのです。
また、受験期の気分転換として料理をする子どももいて、食が生活の一部として定着していることを実感します。
ー 最後に、記事を読まれる方へメッセージをお願いできますでしょうか?
伊藤さん:家庭で子どもに料理を体験させたいと思っても、準備や後片付けが大変で、なかなかきっかけが作れない方も多いと思います。
ほっぺの会は、そんな方々の「ファーストステージ」として、安全で楽しい料理体験の場を提供しています。
知識を得て一度体験すれば、その後は自分でも続けていけるはずです。
特に忙しい方こそ、こういった知識を持っておくことが大切だと考えています。
子どもの可能性を信じ、豊かな人生を送ってほしいと願う方は、ぜひ各年齢に応じた講座にご参加ください。
きっと、新しい発見があるはずです。