「治らないうつ病」を救う – マインドフルネスを用いた新しい精神療法の可能性「マインドフルネス総合研究所」

従来の治療では改善が難しかったうつ病や不安症の患者に、希望をもたらす治療法「マインドフルネス」。

30年にわたる実践から生まれた独自の療法で、多くの改善事例を生み出している「マインドフルネス総合研究所」の取り組みについて、代表の大田健次郎氏にお話を伺いました。

心を観察する独自の精神療法

ー 支援内容と対象者についてお聞かせください。

大田氏:私たちは、従来の治療では改善が見られないうつ病の方や不安症の方、PTSDなどの精神疾患を抱える方々を対象に、独自に開発した精神療法「マインドフルネス」の一種、自己洞察瞑想療法SIMTによる支援を行っています。

この治療法の核となるのが、マインドフルネスの手法です。

これは単に心を観察するだけではなく、辛い症状や出来事があっても、人生の価値を実現する意志を成長させます。

特にうつ病の方が陥りやすい辛い考えの循環や、不安症の方が経験する行動の制限といった症状に焦点を当てています。

患者さん自身に、何が病気を長引かせているのかを観察していただき、それを克服する方法を指導しています。

自らの経験から生まれた治療法

ー このような治療を始められたきっかけについてお聞かせください。

大田氏:私自身が40歳の時にうつ病を経験したことが、全ての始まりでした。

40年前当時は、効果的な薬物療法も限られていました。

そんな中、担当の精神科医から仏教の本を読むことを勧められ、特に禅の教えに可能性を見出しました。

坐禅会に通い始めて約1年で症状が改善。

この経験から、同じように苦しむ人々の助けになれるのではないかと考え、さらに研究を重ねました。

1993年からは、会社勤務を続けながら勤務のない週末を利用して、ボランティアで支援活動を開始しました。

科学的根拠に基づく治療アプローチ

大田氏:私たちの特徴は、単なる相談支援ではなく、各症状に対する具体的な改善方法を持っていることです。

20年にわたる試行錯誤の末、2013年に体系化された治療法は、科学的な裏付けを持つものとして書籍化しています。

特に、治療が難しいとされるケースで、引きこもりや就職困難といった深刻な状況に陥っている方々への支援に力を入れています。

実際に多くの改善事例を積み重ねてきたことで、患者さんからの信頼も得られています。

時代とともに変化する課題

ー 活動を始められた当初と現在で、変化を感じることはありますか?

大田氏:30年前の活動開始時は、多くの方々が治療を求めて来られました。

しかし、その後アメリカから従来型のマインドフルネス、無評価で観察する瞑想ですが、それが導入され、一種のブームとなったことで、状況が変化しました。

興味深いことに、近年の研究でその従来型マインドフルネスではうつ病の完治が難しいということが明らかになってきています。

私たちの治療法は、まだ広く知られていないものの、確実な治療効果を上げ続けています。

患者さんの命を守る慎重なアプローチ

ー 治療の際に特に意識されていることは何でしょうか?

大田氏:薬物療法で改善が見られなかった方々は、自死のリスクを抱えていることが少なくありません。

そのため、特に以下の点に慎重な配慮を行っています。

  • 患者さんを不安にさせないよう、丁寧な説明を心がける
  • 一人ひとりの状況を深く理解し、個人を尊重する
  • 治る可能性があることを誠実に伝える
  • なるべく分かりやすい説明を心がける
  • 10ヶ月間の治療完遂を目指した支援を行う

社会課題の解決に向けた新たな挑戦

ー 今後の展望についてお聞かせください。

大田氏:現在、内閣府の2つの官民連携プラットフォームに参加しており、より広い社会貢献を目指しています。

特に注力したい分野が3つあります:

  1. 災害被災者支援:東日本大震災後の経験から、災害関連死、特に自死の予防支援が重要だと考えています。
    被災地での直接支援と、支援者の育成を進めていきたいと考えています。
  2. がん患者さんのメンタルケア:がん患者さんの中には、病気の苦しみから精神的に追い詰められ、自死に至るケースが少なくありません。
    がん患者さんのうつ病予防支援は、重要な課題だと認識しています。
  3. 全国での支援者育成:この治療法を実践できる支援者を全国で育成することで、より多くの方々に支援の手を差し伸べられる体制を作りたいと考えています。

すべての人が持つ「回復する力」を信じて

ー 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

大田氏:現在も年間約2万人の方が自死で亡くなっており、特に若い女性や高齢者の割合が高くなっています。

人生には誰しも大きな出来事が起こり得ますが、それは同時にうつ病や自死のリスクと隣り合わせであることを意味します。

しかし、皆さんの中には必ず「底力」があります。

私たちは、その力を引き出すためのアドバイスを提供するだけで、実際の回復は皆さん自身の力で成し遂げられています。

どんなに苦しい状況でも、うつ病を予防し、自死を防ぐことは可能です。

一人で悩まず、専門家に相談することで、新しい人生の展望が開けることがあります。

どうか、諦めることなく、人生を生き抜いていただきたいと願っています。