“自分で決める”を大切に。福祉の視点を取り入れた新しいフリースクールのMikatana

岡山県の瀬戸内海沿いに、ユニークなフリースクールがあります。小学生から25歳までの幅広い年齢層を対象に、フリースクールと引きこもり支援を同時に行うMikatana。福祉制度を活用して利用料を抑えながら、豊かな自然環境で子どもたちの成長をサポートしています。代表の中西さんに、設立の経緯や支援に込める想いについてインタビューしました!

サービス概要

ーフリースクールMikatanaの概要について教えてください。

中西さん:フリースクールMikatanaは、小学1年生から25歳までの幅広い年齢層を対象とした支援施設です。「誰もが自分らしく過ごせる場所を」という思いから、2つの機能を備えています。小学生から高校生の方にはフリースクールとして、18歳以降の若者には引きこもり支援の場として活動を展開しています。

開所時間は朝9時から夕方6時までです。1日の流れは大きく午前と午後に分かれており、特に午前中は「個」を大切にした時間として設定しています。パソコンでの学習、木工作品の制作、プログラミング、ドローンの操作、デザインソフトを使ったイラスト制作など、生徒さん一人ひとりの「やってみたい」という気持ちを大切にした活動を行っています。

活動内容は、すべて生徒さんが自分で決めることができます。「何をしたらいいか分からない」という方のために、活動カードも用意しています。このカードには、当校で提供できるさまざまなプログラムが書かれています。カードから選んでいただくことも、もちろん自由です。また、ご自宅から好きなものを持ってきていただき、それを使った活動から始めることもできます。

設立の経緯

ー設立のきっかけについて教えてください。

中西さん:フリースクールMikatanaの設立には、私自身の経験が深く関わっています。以前、私は東京で学習塾のコンサルタントとして働いていたのですが、その中で、不登校の生徒さんたちと多く関わる機会がありました。通常の学習塾では対応が難しい生徒さんたちのために、塾が開く前の空き教室を使って、特別な支援の時間を設けていたのです。

しかし、勤めていた会社が倒産し、塾も売却されることに。突然、支援を必要としている生徒さんたちとお別れすることになってしまったため、この経験が私の心に強く残り、いつか不登校の子どもたちのための場所を作りたいという思いを持つようになりました。

東京での独立を考えましたが、高額な賃料が大きな壁となりました。フリースクールの運営は、経済的に成り立たせることが難しかったのです。その思いを抱えたまま時が過ぎ、2018年に転機が訪れました。

たまたま岡山県への旅行中、西日本豪雨という大きな災害に遭遇したのです。再開を予定していた友人も被災してしまいました。そのため旅行を取り止め友人含む被災地でのボランティアに参加することにしました。泥かきなど、さまざまな支援活動を行う中で、地域の方々との絆が深まっていきました。

そんな中「ホテルからボランティア通いはもったいない」と、地域の方が親切にも空き家を貸してくださったのですがそこが、現在のフリースクールMikatanaがある牛窓地区だったのです。

この地域は、東京育ちの私の目には驚くほど魅力的に映りました。美しい海岸があり、緑豊かな自然に囲まれているのに、高齢化が進み、空き家が増えていました。都心部へも車で30分ほどで行けるこの素晴らしい場所が、なぜ活用されていないのだろう。そう考えていた時、より良い物件と出会うことができました。

海沿いにある大きな空き家の一軒家を、使わせていただけることになったのです。「この家を自分が住むためだけに使うのはもったいない。社会のために活用できないだろうか」。そう考えた時、長年温めていたフリースクール設立の夢が、一気に現実味を帯びてきました。

この場所なら、東京では実現できなかった理想のフリースクールが作れる。自然を活かした活動もできる。賃料の心配もない。そして何より、不登校の子どもたちの新しい居場所として、素晴らしい環境になるはずだ。そう確信し、フリースクールMikatanaの設立を決意したのです。

それまでの経験と、思いがけない出会いが重なり合って、今のフリースクールMikatanaが生まれました。振り返ってみると、災害がきっかけで岡山に留まることになり、それが新しい道を開いてくれたのだと感じています。

Mikatanaの特徴

ーMikatanaならではの特徴を教えてください。

中西さん:フリースクールMikatanaには大きく3つの特徴があります。

1つ目は、福祉の専門家が常駐していることです。心理士や理学療法士など、福祉の専門知識を持ったスタッフが毎日生徒さんたちをサポートしています。これは、福祉制度を導入しているからこそ実現できた体制です。

実は、不登校の生徒さんの半数以上が、何らかの特性や障がいを持っています。例えば自閉症スペクトラム、発達障がい、とても繊細な性格(HSC)、朝起きるのが特に難しい症状(起立性調整障がい)などです。外見からは分かりにくいものの、それぞれの生徒さんが異なる課題を抱えています。

このような状況に適切に対応するため、当校では専門スタッフによる支援を大切にしています。生徒さん一人ひとりの特性を理解し、その子に合った「合理的配慮」を行うことで、安心して過ごせる環境を作り出しています。

2つ目は、恵まれた自然環境です。当校のある場所は、穏やかな瀬戸内海に面しています。校舎から歩いて5分で美しいビーチに到着でき、施設の裏手には緑豊かな山があります。さらに、フェリーで3分ほどの場所には、3つの島があります。そのうち2つは無人島で、自然体験の場として活用しています。

この環境は、都会の喧騒から離れ、心を落ち着かせるのに最適です。波の音を聞きながらゆっくり過ごしたり、砂浜で遊んだり、山での活動を通じて達成感を味わったり。自然との触れ合いは、子どもたちの心を徐々にほぐしていってくれます。このような環境でフリースクールを運営している施設は、全国的に見ても非常に珍しい存在です。

3つ目は、生徒さん主体の活動方針です。当校では、「何をするか」を、できるだけ生徒さん自身に決めてもらいます。これは、一人ひとりの興味や関心を大切にしたいという思いからです。

たとえば、パソコンを使った学習に興味がある生徒さんには、その分野を深められるようサポートします。物作りが好きな生徒さんには、地元の大工さんから本格的な工具の使い方を学ぶ機会も提供しています。プログラミングやドローンの操作、デジタルアートの制作など、活動の幅は実に広いものです。

もちろん、「何をしたらいいか分からない」という方もいらっしゃいます。そんな時は、私たちが用意した活動カードから選んでもらったり、好きなものを家から持ってきてもらったりします。そこから少しずつ、自分のやりたいことを見つけていってもらうのです。

料金体系

ー料金プランについて教えてください。

中西さん:料金体系は大きく分けて2つのプランを用意しています。一つは一般料金として、平日9時から18時まで毎日利用可能な月額4万5000円の「フルタイムプラン」、もう一つは週1回利用可能な月額1万8000円の「週1回プラン」です。この時間帯設定により、保護者の方の就労時間に合わせた利用が可能です。

さらにMinakataでは福祉制度を導入しています。必ず補福祉制度を活用できるわけではありませんが、福祉制度を活用できれば通常の約10分の1程度まで費用を抑えることができます

ただこの制度の利用可能性はお住まいの市区町村によって異なります。近年は市区町村との連携が進み、必ずしも何らかの障がいに該当すると診断を受けていなくても制度を利用できるケースも増えてきていますが、まだ利用できない地域もあるため、初回の面談時に詳しく確認させていただきます。

今後の展望

ー今後の展開について教えてください。

中西さん:フリースクールMikatanaには、これからの未来に向けた大きな目標があります。

それは空き家問題の解決に貢献することです。日本全体で問題となっている空き家の増加は、特に地方で深刻です。私たちが活動している岡山県でも、たくさんの空き家が活用されないまま残されています。これらの空き家を、子どもたちの学びの場として生まれ変わらせたいと考えています。

この取り組みには、もう1つ重要な意味があります。現在、私たちの施設には、岡山市や倉敷市など、人口の多い地域から通ってくる生徒さんが大変多くいらっしゃいますが中には1時間以上かけて通ってくる方もいます。これは保護者の方々にとって、送り迎えの負担が大きく、心を痛めています。

そこで今後は、地域の空き家を活用して新しい校舎を作り、より多くの場所で支援活動を展開していきたいと考えています。生徒さんの住まいに近い場所に校舎があれば、通学の負担も減り、より多くの方に私たちのサポートを届けることができるはずです。

メッセージ

ーMikatanaの利用を検討されている方へメッセージをお願いします。

中西さん:当校は「ただ居られる場所」を作ることを目指しているのではありません。一人ひとりが本来持っている輝きを取り戻し、自分らしく成長していける場所でありたいと考えています。そのために、心理士や理学療法士などの専門スタッフが常駐し、子どもたち一人ひとりの特性や状況に合わせたサポートを提供しています。

利用をご検討いただく際は、必ず見学と体験の機会を設けさせていただいています。これは、お子様自身に「ここに通いたい」と感じていただくことが、とても大切だと考えているからです。親御さんの意向だけでなく、お子様の気持ちを何より大切にしたいと思っています。

通学の負担はあるかもしれません。しかし、その分以上の価値ある変化を、必ずお子様にもたらすことができると確信しています。今、学校に行けない。どこにも居場所がない。そんな思いを抱えているお子様とご家族の皆様。どうか、一度見学にいらしてください。

この瀬戸内の穏やかな空の下で、お子様の新しい一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか。まずは、お気軽にお問い合わせください。心よりお待ちしています。