海外公演から小学校での教育活動まで。大阪を拠点に活動するNPO法人国際落語振興会は、伝統芸能としての落語の新しい可能性を追求しています。2006年の設立以来、3万6000人以上の子どもたちに落語の面白さを伝え、独自の字幕方式で、落語家初となるニューヨーク国連本部やカーネギーホールなど、世界14か国で海外公演を実現してきました。桂小春團治さんに、落語の持つ無限の可能性と、その継承への思いを聞きました。
NPO法人 国際落語振興会の設立背景と活動内容
ー貴団体の活動内容について教えていただけますか？
桂小春團治さん：基本的には上方落語の普及を目的としていますが、通常の落語会を開催するだけでなく、「国際」という名前が示す通り、海外で初めて落語を聴く方々に向けた活動が中心となっています。
また国内では、平日夜の公演時間に合わせづらいビジネスマン向けに、ビジネス街で7時半から1時間15分程度の手軽な落語会を1500円という手頃な価格で提供したり、小学生のための落語鑑賞会を開催したりと、様々な形で落語に触れる機会を創出しています。
落語家としての原点
ー落語家を目指されたきっかけを教えていただけますか？
桂小春團治さん：小学校の必修クラブで芸能部に入ったことが、落語との出会いでした。その後、中学時代に落語好きの同級生から本を借りたり、ラジオの寄席の公開録音に連れて行ってもらったりしながら、興味を深めていきました。高校・大学時代は落語研究会で活動し、そのまま落語家の道を選びました。
団体設立の経緯と海外公演への挑戦
ー団体を設立された経緯について教えていただけますか？
桂小春團治さん：2000年から個人で海外公演を始めましたが、毎回の資金調達が課題でした。上方落語は一人芸ですが、三味線や太鼓の演奏者も必要で、海外での本格的な公演には字幕オペレーターなども含め、複数のスタッフが必要となります。
そのためより効果的な資金調達を行う必要があると考え、落語界初のNPO法人を平成18年に設立。当初は海外公演のための組織という位置づけでしたが、現在では国内外で幅広い活動を展開しています。
落語の特徴と国際的な価値
ー落語の特徴や魅力について教えていただけますか？
桂小春團治さん：落語は扇子と手拭いだけを使い、座ったまま複数の登場人物を演じ分ける日本独自の芸能です。海外のコメディでは、スタンドアップコメディ（漫談）や2人で行う漫才のようなものはありますが、このような形式は世界でも類を見ません。
また、落語の特徴として、爆笑だけでなく、皮肉めいた苦笑いや微笑みなど、様々な笑いの要素がストーリーの中に織り込まれています。漫才やコントとは異なる、独特の笑いの作り方を持っているのです。
未来へ向けた取り組みと教育活動
ー今後の活動についてお聞かせください。
桂小春團治さん：現在の主な活動の柱は、海外での落語紹介と小学生への落語体験機会の提供です。特に教育面では、これまでに約3万6000人の小学生に落語を届けてきました。
中学生になると反抗期と重なり、古典芸能に対して否定的な印象を持ちやすくなります。しかし、小学生は先入観なく落語を楽しむことができます。この時期に良質な体験を提供することで、将来的な落語ファンの育成につながると考えています。
また、落語はイメージ芸なので子供たちの想像力を養うという意味でも役立つと思います。
加えて教育現場との連携も積極的に進めています。特に大阪市教育委員会とは密接に連携し、各学校の規模に合わせて適切な人数での鑑賞会を実現しています。
今後は、これまで培ってきた海外公演のノウハウと教育プログラムを融合させ、より多くの方々に落語の魅力を伝えていきたいと考えています。特に、助成金や補助金の獲得を通じて、活動の継続性と質の向上を図っていく予定です。
落語の魅力と参加のお誘い
ー最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
桂小春團治さん：多くの方が落語を「古典芸能だから言葉が分かりにくいのでは」と敬遠されがちです。しかし、能や歌舞伎と異なり、落語は時代とともに言葉を現代的にアレンジしてきました。ほぼ現代語で演じられるため、初めての方でも非常に親しみやすい芸能なのです。
特に、ビジネスマン向けの「アーバン寄席」は、仕事帰りに気軽に参加できる1時間15分の公演です。1500円という手頃な価格で、落語の世界を存分に楽しんでいただけます。また、小学生向けの落語会など、年齢を問わず楽しめる様々な公演を用意しています。
まずは一度、お気軽に足を運んでみてください。きっと「こんなに面白く、分かりやすいものだったのか」と新しい発見があるはずです。落語は決して難しいものではありません。日本の伝統的な話芸の魅力を、ぜひ体験してみてください。私たちは、皆様のご来場を心よりお待ちしております。
