芸術教育、とりわけ美術教育は子どもたちの創造性や感性を育む重要な機会です。しかし、日本の教育現場では、受験や進学を意識するあまり、芸術教育が軽視される傾向にあります。そんな中、フランスでの美術活動経験を持つ南 健吾氏は、子どもたちにより豊かな美術体験を提供したいという想いから、福岡県で『イロみな絵画・造形教室』を立ち上げました。
教員としての経験を活かしながら、フランスで目の当たりにした芸術文化の日常的な浸透を日本でも実現させたい。そして何より、子どもたちが安心して自己表現できる居場所を作りたい。そんな南氏の想いは、個別指導とチケット制という独自のシステムとなって実を結び、現在では3つの教室で100名以上の生徒が学んでいます。
今回は南氏に、教室設立の経緯から指導方針、そして美術教育に込める想いまで、じっくりとお話を伺いました。
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東北芸術工科大学・洋画科卒業後、福岡県内の高等学校や特別支援学校で勤務。美術作家として福岡や東京で展覧会多数。2012年から4年間フランスのボルドー市(福岡市姉妹都市)に滞在しながらボルドーやパリなどで展覧会、美術館への作品寄贈、グレ・スー・ロワン市長賞、ルーブル美術館展覧会への参加など。
小郡市、朝倉市、鳥栖市にて子供から大人まで通える絵画・造形教室もおこなう。
「高校教師からの転身」元美術教員が見つけた、地域が求める教室のかたち
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ー南様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!『イロみな絵画・造形教室』を始めた経緯と、教室の概要について教えていただけますか?
南 健吾代表(以下敬称略):私は以前、高校や特別支援学校で教員として美術を教えていました。その経験を活かし、現在は福岡県大刀洗町を拠点に、写真を専門とする妻とともに『イロみな』を運営しています。その一事業として絵画教室を営み3年半が経ちました。
教室を始めるきっかけの一つとして、地域の習い事の状況を調査したことがあります。ピアノ教室や習字教室は多く見られましたが、絵画教室が非常に少ないことに気づきました。この状況を寂しく感じ、地域に根差した絵画教室の必要性を強く感じました。
現在は小郡(おごおり)市、朝倉市、鳥栖市の3か所に教室を展開しており、100名以上の生徒さんが通っています。特に年齢は制限していません。開始する時期としては5才以上からと考えていますが、もっと早くからでも取り組めることはあるので保護者のご希望に沿いたいと思っています。
フランスでの芸術文化体験から芽生えた教室設立の想い
ーフランスでの経験が、現在の教室運営に大きな影響を与えているとお聞きしました。具体的にどのような体験が、教室設立のきっかけとなったのでお願いしますか?
南:私は美術作家として、フランスで4年間の活動経験があります。その間、フランスにおける美術の位置づけや、日常生活への浸透度の高さに大きな衝撃を受けました。
特に印象的だったのは、一般の方々が気軽に絵画を購入し、自宅に飾って楽しむような文化が根付いていたことです。美術館に行くと、いつも子どもたちの姿が見られ、学校の課外授業として美術館を訪れる機会も多く設けられていました。
このような環境で育つことで、子どもたちは自然と美術に親しみを持つようになります。私は、この「子どもの頃から美術に触れる機会の多さ」が、フランスの豊かな美術文化を支える重要な要素なのではないかと考えました。
この経験から、日本でも子どもたちが美術により親しめる環境を作りたい、美術に対する敷居の高さや距離感を縮められる場所を提供したいという想いが強くなり、絵画教室の開設を決意しました。
生徒一人ひとりに寄り添う個別指導とチケット制による柔軟な運営体制
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ー他の絵画教室とは異なる、独自の特徴や強みについて具体的に教えていただけますか?
南:私たちの教室には、2つの特徴的な仕組みがあります。
1つ目は、完全個別指導制を採用していることです。学校教育のように一律の課題を与えるのではなく、生徒一人ひとりの興味や適性に合わせて課題を設定しています。その進捗管理には、オリジナルのスタンプカードを活用しています。
基本的な学習の流れは設定していますが、それは柔軟に調整可能です。例えば、立体物の制作が好きな生徒にはそうした課題を多めに取り入れたり、絵を描くことが得意な生徒にはその方面の課題を重点的に設定したりします。このように、生徒の「やりたい」という気持ちを最優先に考えて指導を行っています。
中には、動物画など特定のテーマに沿った指導を重視する教室もありますが、私たちは生徒の興味関心を第一に考え、それに合わせた課題設定を心がけています。
2つ目の特徴は、月謝制ではなくチケット制を採用していることです。1時間2,000円(材料費込み)のチケットを購入していただき、生徒のペースに合わせて自由に使用していただける仕組みを導入しています。
この制度は、私自身の子育て経験からも有効性を実感しています。以前、子どもをスイミングスクールに通わせていた際、体調不良や家庭の都合で休まざるを得ない時があり、月謝制では経済的な負担を感じることがありました。
チケット制であれば、毎週通う生徒も、隔週で通う生徒も、それぞれの生活リズムに合わせて柔軟に教室を利用することができます。特に、仕事の都合で定期的な通塾が難しい大人の生徒さんからも、この制度を高く評価していただいています。
「サードプレイス(第三の居場所)」としての教室づくり
ー教室運営において特に大切にされている理念や考え方を教えていただけますか?
南:私たちは「サードプレイス」という考え方を非常に大切にしています。習い事の教室は、学校や家庭とは異なる、もう1つのコミュニティとしての役割を持っています。これは子どもたちの健全な成長にとって、とても重要な要素だと考えています。
例えば、学校で何か困難なことがあったり、家庭でストレスを感じたりしても、教室という別のコミュニティがあることで、心のバランスを保つことができます。教室で楽しい時間を過ごし、新しい友達を作ることで、また明日から元気に学校に通える。そんな心の支えとなる場所を目指しています。
そのため、私たちの教室では会話を制限することはありません。ある程度のおしゃべりは許容し、楽しい雰囲気の中で自然と学びが得られる環境づくりを心がけています。生徒どうしのコミュニケーションも良いことと捉え、お互いの作品を鑑賞し感想を言い合う場面も見られます。
「3教室から4教室へ」急成長する人気教室が追求する、理想の指導体制とは
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ー今後の展望について、特に力を入れていることはありますか?
南:現在、教室の更なる拡大を計画しており、4教室目の開設に向けて準備を進めています。その中で特に重視しているのが、指導の質の維持・向上です。
現在、5名の講師にも指導に当たって頂いており、各教室では2名の指導体制を取っています。これは、きめ細かな指導を実現するために欠かせない態勢だと考えています。新しい教室を開設するにあたっては、他の先生方にも私たちの指導方針や理念を十分に理解していただく必要があります。
そのため現在、詳細な指導マニュアルの作成を進めています。このマニュアルには、各課題の具体的な指導ポイントや、生徒への効果的な声かけの方法などを詳しく記載する予定です。私が不在でも、一定水準以上の指導が実現できる体制を整えることが、現在の最重要課題となっています。
「絵を描く」その先にある、子どもたちの未来を支える見えない才能
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ー絵画造形教育は、どのような力が育むと考えていらっしゃいますか?
南:絵画造形活動を通じて、子どもたちはさまざまな力を身につけることができます。最も直接的には、造形力や色彩感覚といった美術的な技能が磨かれます。しかし、それ以上に重要なのは、一つの物事に集中して取り組む力が養われることです。この集中力は、学校での学習活動など、他の場面でも大いに活きてくるはずです。
さらに、美術で培われる感性は、将来的な職業選択の幅を広げることにもつながります。例えば、アパレル業界でのディスプレイ構成や商品レイアウトには、色彩感覚やバランス感覚が不可欠です。これらは美術活動を通じて養われる重要な感性です。
このように、美術教育は数学や国語では育成が難しい、独自の感性や能力を育むことができます。それは時として、農業における作物の配置や展示方法など、一見美術とは関係ないように思える分野でも活かされる可能性を秘めています。
あなたの「好き」を才能に変える場所へ ~創造性を育む絵画教室からのメッセージ~
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ー最後に、『イロみな絵画・造形教室』に入会を検討されている方へメッセージをお願いします!
南:「絵を描くのが好き」「何かを作るのが好き」—— そんな子どもたちの小さな「好き」を大切な才能として育てていきたい。それが私たちの願いです。
フランスで見た光景は今でも鮮明に覚えています。美術館で目を輝かせる子どもたち、芸術を日常的に楽しむ大人たち。その文化は、幼い頃からの豊かな美術体験によって育まれていました。
弊教室には、さまざまな方が通われています。より専門的な指導を求める中高生、美術系への進学を目指す生徒、新しい趣味との出会いを求める大人の方々。そして何より、絵を描くことが大好きな子どもたち。
私たちは、そんな一人ひとりの「やってみたい」という気持ちに、最大限の敬意を払い、寄り添っていきたいと考えています。チケット制による柔軟な通塾スタイル、個別指導による丁寧なサポート、そして何より「楽しい」と感じられる教室の雰囲気づくり。これらすべては、生徒の皆さんの創造性を育む土壌となるはずです。
美術は決して特別な人のためのものではありません。誰もが持っている創造性を、豊かな感性を、存分に発揮できる場所。それが『イロみな絵画・造形教室』です。まずは体験授業から、あなたならではの美術との出会いを探してみませんか。
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