観ることと遊びを通じて子どもの自主性を育む-市川子ども文化ステーション

1983年の設立以来、千葉県市川市で子どもたちの豊かな成長を支援してきた市川子ども文化ステーション。

現代のデジタル社会においても、プロによる舞台鑑賞と生の体験と交流を大切にしながら、子どもたちの創造性と生きる力を育んでいます。

子どもから大人まで、世代を超えた交流の場として地域に根付いている同団体の活動について理事長の加藤香都代さんにお話を伺いました。

文化的な活動の歴史

ー「市川子ども文化ステーション」の活動が始まった背景についてお聞かせください。

加藤さん:1983年、子どもの育つ環境に危機感を持った保育園の父母会が中心となり任意団体として発足したのがはじまりです。

当時、全国的におやこ劇場や子ども劇場が設立される時期で、市川でも子どもたちに文化的な活動ができる場所を作ろうという思いから活動がスタートしました

その後、25年前にNPO法人化し、現在の市川子ども文化ステーションとして活動を継続しています。

幅広い年齢層に向けた多様な活動を展開

ー どういった方を対象にどんなことを提供されているかについてお聞かせください。

加藤さん:市川市に住む赤ちゃんから小・中・高校生の子ども18歳以上の青年、そして子育て世代からも
っと上の年代の大人まで、それぞれがお互いにサポートしたり一緒に楽しんだりしながら、様々な活動を展開しています。

舞台鑑賞や子どもの実践的な遊び体験、社会体験、キャンプなどの活動のほか、子どもがつくるまち『ミニいちかわ』というイベントも開催しています。

観ることは舞台劇、人形劇、音楽、芸能などの舞台芸術を生で鑑賞する(観る)ことは心の栄養になります。

年齢に合った作品を会員自ら選考し、年間に3回鑑賞します。

また、事前に劇団の方のお話を聞いたり、ワークショップを行ったり、サークルで看板を作っています。

当日の設営、受付、オープニング、カーテンコールや、会場係などのお当番も楽しみの一つです。。

地域の子育て支援も重要な活動の一つで、市川市からの委託を受けて「新浜親子つどいの広場」を運営し、社会福祉協議会からの助成を受けて「てるぼサロン」という広場も運営しています。

さらに、会員制の親子サークルや子ども食堂の運営、子どもの権利条約の啓発活動なども実施しています。

年齢に応じた参加形態で自主性を育む

加藤さん:活動対象は0歳から中学生・高校生、そして大人と幅広く、それぞれの年齢に応じた参加形態を用意しています。

0〜3歳児は広場や親子サークルで、幼稚園入園前の子どもたちは親子で楽しめる活動に参加できます。

中高生の参加も特徴的で、参加するだけでなく、自分たちで実行委員会を組織し、プログラムを作るなど、中高生たちが主体的に動いて準備する活動もあります。

また、「ミニいちかわ」などのイベントではボランティアとしても活躍し、テント設営や会場整理なども担当しています。

人気プログラムは自然と触れ合うデイキャンプ

ー開催されている中で特に人気のプログラムはなんですか?

加藤さん:親子で参加するプログラムの中で特に人気があるのは、デイキャンプです。

河川敷でスイカ割りをしたり、みんなでカレーを作って食べたり、自然体験を楽しみます。

子どもたちは土手を滑り降りるシンプルな遊びほど楽しみ、火起こしなど、普段できない体験にも挑戦します

子どもの声を聴き、自主性を重視した活動

ー活動をされる中で特に大切にされていることはなんですか?

加藤さん:子どもの権利条約にある『子どもの声を聴く』ということを、私たちは長年大切にしてきました。

最近になってようやく社会的にも注目され始めましたが、私たちの活動では常に、子どもが発する言葉や仕草、すべてを受け止め、尊重することを第一に考えています。

また、子どもの自主性を育むため、大人が先回りして教えることは控えめにしています。

子どもが自主的に動けるようサポートし、失敗する経験を奪わないことも大切にしていて、失敗も自分で引き受けることができる力や挑戦する力を育んでいきたいと考えています。

世代を超えた交流の場を創出

加藤さん:私たちの会の特徴は、子どもから大人まで様々な年代の人がいて、子どもも大人も対等に意見を言い合える関係性を築けていることです。

これからも学校や家庭とは異なる、地域の中の居場所をたくさん作っていきたいと考えています。

「市川子ども文化ステーション」ではシニア世代から若いママさんまで、大人同士の交流も活発です。

「大人のあそぼう会」では、会員が講師となって味噌作りなどのイベントを開催したり、時には子育ての悩みを共有してきたりすることで強い絆が生まれます。

様々な場面で大人同士も繋がり合うことで、居場所となり、また、子どもとの関わり方を学び合うことができます。

今後の展望:舞台鑑賞体験の機会拡大へ

ー今後新たに取り組んでいきたいとお考えのことはありますか?

加藤さん:現在、市川市内のすべての子どもたちにプロの舞台芸術鑑賞の機会を提供できるよう、行政への働きかけを行っています。

私たちの会員だけでなく、市川市内の小中学校の子どもたち全員が、年に1回でもプロの舞台を見られる機会を作りたいと考えています。

デジタル時代だからこそ大切にしたい、生の体験

加藤さん:今の時代、人とのコミュニケーションが難しい子どもたちが増えていると感じます。

家の中でYouTubeを見て楽しむのも良いですが、実際に人と触れ合う体験や、手の届く焚き火の炎の熱さを感じるなどの生の体験が希薄になっています。

私たちの活動では、大人も子どもも一緒になって遊び、交流する中で、画面越しでは得られない経験を提供しています。

キャンプでは、子どもたちはよくお化け屋敷をやりたがるのですが、それも自分たちで企画して実行していて、自分が計画したことを実現できる興奮や達成感は、子どもたちの目の輝きからも伝わってきます。

また、体験活動も重視し、キャンプでマスのつかみ取りでは、生きたマスを掴み、内臓を取り出す作業まで体験します。

『内蔵えぐられる』という言葉の意味を、実体験を通じて学び、最後は自分たちで調理した魚を美味しくいただく、そうした命を頂く経験まで、一連の流れとして体験できます。

第三の居場所として

加藤さん:「市川子ども文化ステーション」は異なる学区の子どもたちが交流できる場としても機能しています。

学校で居場所がある子もない子も、ここでの友達や、寄り添ってくれる大人がいる安心感にも繋がるなど、第三の居場所として、子どもたちの(大人たちも)心の支えにもなっています。

参加を考えている方へのメッセージ

加藤さん:観ることと遊びは生きる力に直結します。

でも難しく考えず、まずは楽しく遊べる場所として参加していただければと思います。

子どもたちがワクワク、ドキドキしながら活動する姿を見て、保護者の方々にも良い活動だと感じていただけたら嬉しいです。

私たちの活動の特徴は、単に用意されたイベントに参加するだけではないこと。

子どもたちには無限の可能性があり、私たちはその力を信じて見守っています。

場所さえあれば、子どもたちは自然と遊びを生み出し、ルールを作り、コミュニティを形成していきます。

そんな子どもたちの持つ力を信じ、見守る場所として、より多くの方に知っていただければ幸いです。