子どもの「描きたい!」で始まる『こども絵画教室 麻布アトリエ』 〜創造性を育む新しい美術教育とは〜

子どもたちの個性を活かした絵画教育に注目が集まっています。従来の絵画教室では、テーマや時間配分を統一して進める画一的な指導が一般的でした。しかし近年、子どもたち一人ひとりの「好き」を大切にし、創造性を育む新しい形の絵画教室が増えてきています。

今回は、東京・港区に拠点を置く『こども絵画教室 麻布アトリエ』を取材しました。現役の画家である代表の松田光一氏と、講師で奥様でもある松田みえ氏が2017年末に立ち上げた同教室は、子どもたちの主体性を重視した独自の指導方針で注目を集めています。受験のための技術習得ではなく、絵を描く楽しさを第一に考え、子どもたち一人ひとりの興味に合わせた指導を行っています。コロナ禍にはオンライン指導も取り入れ、地理的な制約を超えて多くの子どもたちに絵画の楽しさを伝えてきました。

監修本の出版や展覧会の開催など、様々な取り組みを通じて子どもたちの創造性を育む『こども絵画教室 麻布アトリエ』の魅力を、松田みえ氏にたっぷりと聞いてきました。

「今日は何を描く?」子どもの “創造力” を伸ばす自由な教室

ー本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは、『こども絵画教室 麻布アトリエ』様の概要について教えていただけますか?

みえ先生(以下敬称略):『こども絵画教室 麻布アトリエ(以下麻布アトリエ』は、幼児から小学生を中心とした子どもたちを対象とした絵画教室です。最年長で中学3年生まで在籍していますが、主なボリュームゾーンは幼児と小学生となっています。

指導面では、鉛筆、クレヨン、絵の具という3つの基本的な画材を中心に使用しています。よくある絵画教室では様々な画材を使用しますが、私たちは基本を大切にしています。基本ができていないと、他の画材を使っても良い作品は生まれないと考えているからです。

特徴的なのは、子どもたち一人ひとりの主体性を重視している点です。一般的な絵画教室では「今日はリンゴを描きましょう」「今日はチューリップを描きましょう」といったように、テーマや時間配分を統一して進めることが多いそうです。しかし麻布アトリエでは、子ども一人ひとりが自分の好きなテーマを選んで絵を描くことができます。

例えば、お花ばかり描く女の子もいれば、車ばかり描く男の子もいます。それでもいいのですが、なるべく、好きなものだけにフォーカスして描き進めるのではなく、描いたことのないもの、経験したことのないことをモチーフに選んでもらうことで、サイズ感や構図を幅広く学べるような工夫をしています。好きにフォーカスするのではなく、子どもたちの「描いたことのない」をフックにして、創造性を広げていくことを大切にしています。

「素敵な子ども絵画教室をつくりたいね」現役画家が描いた理想の教室づくり

ー麻布アトリエを立ち上げた経緯について教えてください。

みえ:主人が現役の画家(松田光一氏)で、絵を描くことが生活の一部になっていました。私自身も4歳から13歳まで他の絵画教室に通っていた経験があり、夫婦で「もっとこういう教室があったらいいのに」という思いを共有していました。主人も子どもが好きで、自分が培ってきた技術を誰かに伝えることに興味があったんです。

麻布アトリエ代表である松田光一は大阪芸術大学出身のアーティストで、全日空の機内誌の表紙を手掛けたり、ロフトでポストカードを販売したり、iPhoneケースのデザインを担当したりと、多彩な活動を展開しています。「クライアントワークだけでなく、目の前にいる人が喜んでくれる仕事をしたい」という思いから、絵画教室の立ち上げを決意したそうです。

麻布アトリエには現役の美大生やイラストレーターなど、様々なバックグラウンドを持つ講師陣が指導にあたっています。年齢層も幅広く、それぞれの先生の個性を活かした指導を行っています。

「描いたことない」という気持ちを大切にする指導方針

ー他の絵画教室にはない特徴や、アピールポイントを教えてください。

みえ:私たちは「絵を描くことを楽しむ」ということを最も大切にしています。上手い下手ももちろん大事ですが、まずは「絵を描くことが好き」という気持ちを育てることを重視しています。絵が好きだけど上手じゃないから恥ずかしいという子もいますが、それも大歓迎です。絵が好きという気持ちがあれば、描いているうちに自然と上手くなっていきます。

体験レッスンでは必ず「絵を描くことは好き?」と質問をします。中には「好きじゃないけど、ママに連れてこられた」という子や、受験のために通う子もいますが、麻布アトリエではそういった目的にとらわれず、純粋に絵を描く楽しさを伝えることを大切にしています。

例えば受験絵画だと手の指は必ず5本でなければいけませんが、うちの教室では6本になってしまってもそれは構いません。それよりも「楽しい!」という気持ちを大切にしています。絵を描くことが好きとか、描いている車が好きとか、そういう気持ちは必ず絵に生き生きと表れるんですよね。

「心から褒める」スタッフ全員で共有する子どもの才能の伸ばし方

ースタッフの方々と共有している指導方針について教えてください。

みえ:必ず褒めるところを見つけることを徹底しています。一見では下手に見えてしまう絵でも、必ず3つ以上は褒める場所があるんです。例えば楽しそうに描いている様子を褒めたり、大きく描けたことを褒めたり、端まで丁寧に塗れたことを褒めたり。色の選び方が綺麗だったことを褒めたり。これはスタッフ全員で共有している方針です。

また、子どもの絵はその時にしか描けない唯一無二のものだと考えています。同じ子どもでも、3歳の時に描いた絵と4歳の時に描いた絵は全く違います。そのため、作品として一つひとつを大切に扱い、子どもたち自身がアーティストになったような気持ちで創作できる環境を整えています。

私たちが特に育みたい能力は「創造性」です。どんな仕事でも創造性は大切だと考えています。例えば「空が寂しいから虹を描き足そう」「鳥を飛ばそう」といった具合に、自分で考えながら世界を作っていく。そういった創造性を育むことを最も大切にしています。

また、片付けも含めて全て自分でやってもらうことで、主体性も育んでいます。絵の具やパレットも自分たちで綺麗に洗い、みんなで共有して使う。そういった経験を通じて、自主性も育っていくのです。

オンラインから書籍まで。より多くの子どもたちに届ける絵画の楽しさ

ー麻布アトリエでは、教室以外でも様々な取り組みを展開されているそうですね。監修本の出版やオンライン指導など、特徴的な活動について教えてください。

みえ:麻布アトリエでは、より多くの子どもたちに絵画の楽しさを伝えるため、様々な取り組みを行っています。

その一つが監修本の出版です。現在までに2冊の本を出版しており、1冊目は主に小学生を対象とした絵の描き方の本です。アサガオの花を例に、鉛筆での下書きから色の作り方、塗り方まで、細かいステップで解説しています。

2冊目は大人向けの本で、より本格的な技法を紹介しています。写真のようなリンゴの絵を例に、陰影の表現方法などを詳しく解説しています。これらの本の制作には、スタッフの先生たちも参加し、挿絵を担当しています。

そして、コロナ禍にはZoomでのオンライン指導も実施しました。2020年から2021年にかけて、関西在住の子どもたちなど、地理的な制約を超えて多くの方々に指導を届けることができました。この経験は、より多くの子どもたちに絵画の楽しさを伝える可能性を広げることとなりました。

さらに、月曜日はお友達のアートの先生にアトリエを使っていただいています。こちらでは、通常の絵画教室では扱わない工作なども体験できます。工作に興味を持った子どもたちには、この月曜日のプログラムを紹介することもありますね。

「子どもたちの可能性は無限大」展覧会から広がる表現の場

ー今後、より強化していきたい取り組みについて教えてください。

みえ:子どもたちの作品を発表する機会を拡大していきたいと思っています。展示会は子どもたちのモチベーション向上にもつながりますし、ご家族にも喜んでいただけると思います。

また、先生たちの活動も応援しています。画家やイラストレーターを目指している先生もいるので、そういった先生たちの発表の場としてギャラリー展なども企画しています。これは先生たちのキャリア形成支援としても重要な取り組みだと考えています。

そして、可能であれば、もう少し教室数は増やしていきたいと考えています。より多くの子どもたちと出会い、より多くの作品に触れることで、私たち自身も刺激を受け、成長できると考えているからです。現在、姉妹校が和歌山にありますが、そのような教室を各地に作っていきたいです。

「楽しい!」を見つけよう。まずは体験レッスンから始まる創造の旅

ー最後に、入会を考えている方へメッセージをお願いします!

みえ:子どもの絵には、「その子らしさ」が詰まっています。上手い下手ではなく、まずは「その子らしい」絵を大切にすることで、自然と表現力は育っていきます。麻布アトリエは、子どもたち一人ひとりの興味や関心に寄り添い、創造性を伸ばしていく場所です。

代表の松田は、自身の学生時代に経験した画一的な指導への違和感から、「子どもたちの自由な発想を育む場所を作りたい」という思いで教室を立ち上げました。その思いは、これまで指導してきた数多くの子どもたちの生き生きとした表情や、のびのびとした作品となって実を結んでいます。

「これは描いたことがない」—そんな子どもたちの純粋な気持ちを出発点に、豊かな創造性を育んでいく。それが私たちが目指す絵画教育です。体験レッスンでは、お子様の「楽しい!」を一緒に見つけていきます。絵を描く楽しさに出会い、創造する喜びを知る。その最初の一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか。