『「自分は大切な存在」を体感する — NPO法人日本ピーススマイル協会が実践する若者の自殺予防』

「悩む前から、自分を大切に」。NPO法人日本ピーススマイル協会が掲げるのは、予防的な自殺対策です。独自のワークショップを通じて若者たちの自己肯定感を育てています。2008年の設立以来、学校への出前授業や居場所づくり、オンライン相談など、活動の幅を広げてきた同協会。代表の越智さんに、若者たちへの思いと支援のあり方について伺いました。

NPO法人日本ピーススマイル協会の設立背景と活動内容

ー設立の経緯と主な活動目的についてお聞かせください。

越智さん:当協会は2008年に設立され、主に青少年の自殺予防を目的として活動しています。2025年1月に発表された厚生労働省の2024年速報値によると、小中高生の自死者数が過去最悪を記録しており、この問題への対応が急務となっています。

私は元々牧師として活動していましたが、当時の日本における自殺問題の深刻さを目の当たりにし、有志のメンバーと共に活動を開始。2018年にはNPO法人化を果たし、より本格的な支援活動への道を開きました。

一般的な自殺予防対策では、ゲートキーパーの養成や悩み相談の強化が主流です。これらは既にメンタルヘルスの不調を抱えている方々への対処療法的なアプローチとして重要です。しかし、私たちは予防的なアプローチを重視しています。メンタルヘルスが悪化する前の、いわば「未病対策」として、全ての青少年を対象にした支援を行っています。

独自のワークショップを通じた自己肯定感の育成

ーどのような方法で青少年の支援を行っていますか?

越智さん:私たちの特徴は、自分の大切さを体感していただくワークショップの展開です。多くの子どもたちは、命の大切さや自己の価値について座学で学んでいますが、「他人は大切だが、自分は違う」と感じている子が少なくありません。そこで、お互いを褒め合い、励まし合うなどの体験型ワークを通じて、「あなたも大切な存在である」ということを実感してもらっています。

これらのワークショップは、主に学校への出前授業として実施していますが、学校での実施にはハードルも高いため、独自のイベントも開催しています。ディスカッション、料理教室、ボランティア活動など、子どもたちが興味を持ちやすい企画の中にワークショップを組み込み、楽しみながら自己肯定感を育める場を提供しています。

活動当初は若い社会人や大学生を対象としたサッカー大会なども開催し、その中でワークショップを実施していました。現在は活動範囲を広げ、主に東京近郊で展開していますが、最近では全国からも問い合わせをいただくようになっています。

包括的な支援体制の構築

ーワークショップやイベント以外の支援内容について詳しく教えてください。

越智さん:子どもたちへの直接的な支援に加えて、保育士・特別支援学校の先生と一緒に親御さん向けへの育児講座や個別相談会を実施しています。子どもたちの成長に大きな影響を与える大人たちへの支援も、自殺予防において重要な要素だと考えているためです。

また、コロナ禍以降、心身の不調を訴える方が増加したことを受けて、継続的な支援として居場所活動も展開しています。具体的には、10代の若者が自由に過ごせる居場所カフェの運営や学習支援を定期的に実施しています。

さらに、東京都の支援を受けてLINEによるオンライン悩み相談も行っています。学習支援の場では、勉強だけでなく、人との交流や安心できる居場所づくりを重視しており、参加者同士の自然な交流も生まれています。

コミュニケーションにおける重要な視点

ー支援活動において、特に意識されていることは何でしょうか?

越智さん:私たちの活動に参加する子どもたちの多くは、何らかの心の傷を抱えているか、日常生活の忙しさに疲れています。そのため、まず大切にしているのは、その子たちをありのまま受け入れることです。二度と傷つくことがないよう、細心の注意を払っています。

さらに、相手の良いところを意識的に見つけ、褒めることを心がけています。例えば、些細な行動でも、「ちゃんと自分で対処できるんだね」「人のことも気遣えるんだね」といった声かけを積極的に行っています。

また、自信がないという子どもたちに対しては、実際の体験を通じて成功体験を積めるよう工夫しています。例えば、司会進行役を任せる際には、「最初から上手くできる人はいない」「ここでは誰も悪く言う人はいない」と伝え、安心して挑戦できる環境を整えています。完璧な結果を求めるのではなく、チャレンジする勇気と過程を認め、褒めることを重視しています。

今後の展望と課題

ー今後の活動についてどのようなビジョンをお持ちでしょうか?

越智さん:ワークショップを通じて、子どもたちの自己肯定感が高まり、自分をより大切にできるようになる変化を実感しています。SNSでも参加者の変容を発信していますが、その効果は明らかです。今後は、より多くの子どもたちにこの機会を提供できるよう、全国展開を目指しています。

同時に、NPOとして活動を継続していくための課題もあります。現状は助成金に依存している部分が大きく、助成金は必ずしも100%獲得できるとは限りません。そのため、寄付やサポーターを増やし、広報活動も強化していく必要があります。これらの課題に対応できる人材の確保も含め、将来的には認定NPOの取得も視野に入れています。

若者の自殺予防に向けたメッセージ

ー最後に、記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。

越智さん:若者の自殺というニュースを目にすると、多くの方が心を痛められると思います。確かに重い問題ではありますが、現場の実感として、確実に防ぐことができます。ただし、メンタルヘルスが悪化してからでは時間がかかるため、早期からの予防的な関わりが重要です。

特に、不登校の子どもたちや様々な事情を抱えた若者たち、オンライン相談に訪れる方々に共通しているのは、自信の喪失です。学校生活や家庭、友人関係の中で自信を失っている彼らにとって、ありのままの自分を認められる体験が大きな意味を持ちます。

若い世代は往々にして自分の不足を意識しがちですが、それは未完成だからこそ当然のことです。結果が伴わなくても、その子なりの努力を認め、現在の状態を受け入れることが、深刻な事態の予防につながります。皆さんも、周りの若者たちに対してそうした関わりを持っていただければと思います。

私たちの活動やワークショップに興味を持たれた方、協力したいと思われた方、どうぞお気軽にご連絡ください。

結果だけでなく、その子なりの努力を認め、現在の姿を受け入れる。そんな小さな声かけや関わりの積み重ねが、実は大きな支えとなり、深刻な事態を防ぐことにつながります。私たちと一緒に、若者たちの未来を支えていきませんか。一人でも多くの若者が「自分は大切な存在だ」と実感できる社会を、共に作っていきましょう。