理論と実践の融合 — 阿蘇の自然を活かした体験型フリースクール『おおあそ未来の杜』の挑戦

不登校の子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりに取り組むフリースクール『おおあそ未来の杜(もり)』。熊本県大津(おおづ)町に拠点を構え、小学生から高校生までを対象に、独自の教育プログラムを展開しています。

代表を務める上田晋也氏は、小中高時代に不登校を経験。そこから、教員免許の取得や農業での経験を重ね、子どもたち一人一人に寄り添った支援を行っています。阿蘇の豊かな自然を活かしたトレッキングや農業体験、さらには自動車整備や大工仕事など、通常の学校では体験できない実践的な活動も提供。学びと体験を融合させた独自のカリキュラムで、子どもたちの「生きる力」を育んでいます。

今回は上田氏に、フリースクール設立に至った経緯や教育理念、そして不登校の子どもたちへの想いについて詳しく伺いました。

自然体験と学びを融合した、新しい形の教育の場

ー本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、『おおあそ未来の杜』の概要について教えてください。

上田:『おおあそ未来の杜』は、学校に行けない子や行きづらい子の居場所支援、そして学校以外の第3の居場所として開設しております。対象年齢は小学生から高校生までです。

特色としては、阿蘇という大自然に囲まれた環境を最大限に活かし、トレッキングや登山、農業体験など、様々な自然体験活動を提供しています。また、自動車整備や大工仕事といった、通常の学校では体験することが難しい実践的な活動も積極的に取り入れています。

基本的に午前中は学習時間とし、午後からは体験活動を行っています。特徴的なのは、学びと体験を連動させた独自のカリキュラムです。例えば、午前中に電気や電力について学習し、午後からは実際に発電所見学に行くなど、座学で得た知識を実体験と結びつける工夫を行っています。このように、理論と実践を組み合わせることで、より深い理解と興味を引き出すことを目指しています。

不登校経験から生まれた、フリースクール設立への強い想い

ー上田様がフリースクールを始められたきっかけについて、詳しくお聞かせください。

上田:私自身、小・中・高校時代に不登校を経験しました。大学卒業後、一般企業に就職し約2年間働きましたが、大きな企業の中で自分の存在意義を見出すことができませんでした。「このまま一生ここにいても意味がない」という思いから、自分の不登校経験を活かし、現在苦しんでいる子どもたちの支援をしたいと考えるようになりました。

当時は教員免許を持っていなかったため、大学に再入学して免許を取得しました。なぜ教員になろうと思ったかというと、将来自分の学校を建てる際に、教育経験がないと説得力に欠けると考えたからです。特に、学校の先生方と対等に話をするためにも、教育現場を知ることが不可欠だと感じました。

また、フリースクールでの活動に向けて農業の経験も積みました。これは、将来的に子どもたちに職業体験や安全教育を提供したいという考えからでした。その後、既存のフリースクールで経験を積み、今年(2024年)4月に独立して現在に至ります。

私の不登校経験は、現在の活動において大きな強みとなっています。経験者だからこそ、子どもたちの細かな変化に気づけ、また保護者の気持ちも深く理解することができます。経験者から語られる言葉には特別な説得力があり、子どもたちに大きな勇気を与えることができると信じています。

「偏らない教育」と「生きる力」の育成

ー生徒さんを教育する際に、特に意識されていることはありますか?

上田:最も重視しているのは「偏らない教育」です。教育は時として、教師の考えが絶対的な正解として捉えられがちです。そのため、私たちは言葉遣いや話す内容に細心の注意を払っています。

子どもたちには、自分で考え、調べる力を身につけてほしいと考えています。例えば、ニュースの情報が全て正しいとは限らないこと、有名な教授の意見だからといって必ずしも正しいとは限らないことなど、常に批判的思考を持つことの大切さを伝えています。

特に今日の情報化社会では、何が正しい情報なのかを判断することが非常に難しくなっています。間違った情報や危険な情報に惑わされると、自分の命に関わる可能性すらあります。そのため、情報の選択方法や判断力を育てることも、私たちが考える「生きる力」の重要な要素となっています。

また、不登校の子どもたちは往々にして自己肯定感が低い傾向にあり、「何をやっても無駄だ」と考えてしまいがちです。そのため、様々な体験活動を通じて、自分の得意分野を見つけ、それを将来の夢や目標につなげられるよう支援しています。

個々に合わせた柔軟な学習環境の提供

ー通学方法や学習カリキュラムについて、詳しく教えてください。

上田:通学方法は、週5日コースと週2日コースを用意しています。週5日コースは月曜から金曜まで毎日通える形で、時間は10時から18時までです。一方、週2日コースは、最初から週5日の通学が難しいお子さん向けに設定しました。これは、元々引きこもりがちだった子どもたちへの配慮から生まれた選択肢です。週2日コースでは、月曜から金曜の中から好きな曜日を選んで通学できます。どちらのコースでも、活動内容は全く同じです。

学習カリキュラムについては、国語、数学、社会、理科などの教科を、週間スケジュールの中でバランスよく学べるよう設定しています。例えば月曜日は英語と国語、火曜日は数学というように組み立てています。ただし、その日の気分や状態によって学習したくない教科もあるため、完全な固定化はせず、柔軟に対応しています。

私たちの考えでは、その日やりたくない教科を無理に押し付けるよりも、気分が向いた時に少しでも取り組む方が、子どもたちにとって有意義だと考えています。実際、最初は苦手だった教科でも、このような柔軟なアプローチにより、後から興味を持つケースも多々あります。

また、生徒一人一人の学習レベルも大きく異なるため、完全なオーダーメイドの指導を行っています。例えば中学生でも小学校レベルの学習が必要な場合もあり、それぞれの状況に応じた指導を心がけています。

「子どもたちの居場所を、熊本の大地に」 — 5年計画で描く未来への展望

ー今後の展望についてお聞かせください。

上田:現在、阿蘇市と大津町の2拠点で運営していますが、5年計画で熊本県南部にも拠点を広げていく予定です。熊本市内を中心とした北部に比べ、南部ではフリースクールが少ない状況です。私たちの理念である「子どもたちの居場所づくり」を、より多くの地域で実現していきたいと考えています。

「あなたの居場所が、ここにある」 — 不登校経験者が語る、明日への一歩

ー最後に、『おおあそ未来の杜』の利用を考えている方々へメッセージをお願いします!

上田:不登校は決して欠点ではありません。むしろ、その経験は必ず自分の長所になると確信しています。今苦しんでいることには必ず意味があるのです。私自身、不登校を経験したからこそ、人の気持ちに敏感になれ、細やかな変化に気づけるようになりました。また、集団行動への違和感や、繊細な性格は、今では子どもたちの異変に気づける大きな強みとなっています。

子どもたちが必要としているのは、自分が輝ける場所、安心できる場所、笑顔になれる居場所です。私たちと一緒に、あなたの居場所を作っていきませんか?心からお待ちしています。