赤・青・黄色のパステルのみを使用し、アートセラピーとしても取り入れられている3色パステルアート。
「絵のレシピ」という独自の手法により、初心者でも楽しみながら取り組めるレッスンを提供しています。
心理師としての経験から生まれたこの手法は、現在全国550名のインストラクターによって、幅広い層に向けて展開されています。
絵が苦手な方も楽しめる癒しのアート
ー3色パステルアートとはどのようなアートなのか教えていただけますか。
浜端さん:3色パステルアートは名前の通り、3色のパステルだけを使って描く技法です。
アートセラピーのひとつとして位置づけています。
ー現在はどのような方を対象にレッスンをされていますか。
浜端さん:元々は私自身が心理師として、精神科デイサービスに勤務していた頃、アートセラピーのカリキュラムとして取り入れたのがきっかけでした。
初めは精神疾患をお持ちの方や発達障害・知的障害がある方向けに行っていましたが、現在はもっと広く一般の方にも楽しんでいただいています。

3色パステルアートの魅力
ー3色パステルアートのどのような点が、アートセラピーにフィットしていると感じられたのですか?
浜端さん:まず、パステルという画材について。アートセラピーでは、水彩やクレヨン・色鉛筆など様々な画材を使用します。
アートセラピーには良い面がたくさんありますが、実施にあたって注意しなければいけないこともあります。
たとえば、水彩画の場合、自分の意思とは関係なく水によって広がっていく様子は魅力的であり、一方で自分自身のコントロール感を失っている方(依存症の方など)には、“コントロールできない”という感覚を想起させてしまうこともあります。
震災時には“津波を想起させる可能性がある”と注意喚起がされたこともありました。
その他の画材にもそれぞれ使用にあたってのメリット・デメリットがありますが、その中でもパステルは比較的リスクが低く、複数人で行うグループセラピーにも向いています。
また、画材として扱いやすいことも理想的です。消しゴムで消せるという安心感もあり、絵に苦手意識がある方には特におすすめの画材です。学校でやったことがない、という新鮮さも魅力ですね。
アートセラピーとは・・・アートセラピーは心理療法の一つで、主にアメリカとイギリスで発達している手法です。名前の通り、アートを使ってセラピー(治療や癒し効果)を求めて行われます。日本では芸術療法と訳されることが多く、絵画だけでなく写真、音楽、詩、演劇など芸術と呼ばれるもの全般を含みます。その中でも3色パステルアートは、分析は一切行わず、自由な自己表現の場を提供することを目的としたアートセラピーの一つです。
絵が苦手な方も楽しめる工夫
ー現在教室に通われている生徒さんは、どのような経験を求めて受講されていますか?
浜端さん:教室にいらっしゃる方は、「絵は苦手だけれど描いてみたい」「少し憧れがある」という方や、「新しい趣味を手軽に始めたい」という方が多いです。
また、最初から3色パステルアートのインストラクターになる資格を目指して、まずどのようなものか体験したくて入口として教室にいらっしゃる方もいます。

ー絵が苦手な方でも取り組めるということですが、具体的にどのような工夫をされているのですか?
浜端さん:まず道具が3色のパステルだけというのが、非常に手軽に始められるポイントです。
私はもともと病院内で実施していたため、特に絵に興味があるわけではない方、絵は中学校の授業ぶりという方を対象にしていました。
そのような方々を見ていると、道具選びの時点で固まってしまったり、色選びに苦戦している様子が多くみられました。
道具は少なくシンプルにしておくことが、はじめの一歩を踏み出していただくためのコツです。
さらに3色パステルアートの特徴的な点として、「絵のレシピ」をご用意しています。
料理のように全ての絵をレシピ化しており、現在135パターンあります。
お料理のように絵の手順を全てレシピ化することで、初めての人でもストレスなく簡単に取り組め、完成まで辿り着けるよう工夫しています。
絵に関しては、道具の使い方を詳しく説明された経験がない人が多いと感じています。
お料理であれば基本の味噌汁や煮物などの基本レシピがあって、徐々に上達していきます。
けれど、絵に関しては子供の時に道具を渡されて「自由にやってごらん」と言われ、自由にやってぐちゃぐちゃになってしまい、成績をつけられて苦手意識を持つ方が非常に多いです。
これはお料理で例えると、子供たちに食材と調理器具を渡して「自由に何かご飯作ってごらん」と言っているようなもので、やはりぐちゃぐちゃなものができてしまいます。
料理はレシピがしっかりしているので、みんなある程度のものが作れるようになります。
3色パステルアートもお料理のようにレシピ化することで、完成まで辿り着ける工夫をしています。

ーレシピ通りにレッスンをする中で、自分で一から描いてみたいという生徒さんもいらっしゃるのですか?
浜端さん:はい。いくつか基本のレシピを行っていくと、道具の使い方が分かってくるので、自分の創作意欲が刺激されて、そこからオリジナルの絵に取り組み始める方もかなりいらっしゃいます。
対話を通じた居場所づくり
ー教室の特徴やレッスンの様子について聞かせていただけますか?
浜端さん:現在インストラクターが全国に550人ほどおり、それぞれが高齢者施設や学童保育、一般の大人向けなど様々な場所で開催しているため、教室によって雰囲気はかなり異なります。
しかし、3色パステルアートとして共通で取り組んでいることがあります。
まず、絵のレシピを使って安心して描ける場を提供すること。
そして作品を描いた後に必ず鑑賞会の時間を設けることです。
アートセラピーに限らず、様々な精神療法において対話の大切さが非常に重視されています。
3色パステルアートでは、オープンダイアログという精神療法を参考にしています。
ダイアログとは対話という意味で、様々な人と対話を重ねることによって凝り固まっていた思考が解きほぐされ、心が楽になるという考え方です。
そこから学んで対話の場を作りたいという想いから、絵を通して対話をする場所として、描いて終わりではなく、必ずどの教室も鑑賞会の時間を設けています。
描き終わった後に皆で感想を言い合ったり、褒め合ったりする時間を取っており、どの教室も初対面の方でも和気あいあいとした雰囲気で、「初めて会ったのにお茶をして夕飯まで一緒に食べて帰りました」という報告をいただくほど、仲良くなる方が多い教室だと思います。

ーインストラクターの方々と共有されている指導方針はありますか?
浜端さん:指導方針というよりは、居場所作りを意識してもらいたいということをインストラクターの皆さんにお伝えしています。
これは自己肯定感が高まるような場所作りをしたいという意図があります。
極端に言うと、絵が完成しなくても、途中までで終わってしまっても良いので、その人がその時にできた表現を認める場所であってほしいということです。
誰が来ても「よく来てくれました」と、来てくれたこと自体を肯定する場所、そして帰る時も「是非また来てください」と、ここにいても良いという居場所作りの一環として3色パステルアートを使ってもらえることが最もやりがいがあり、やっていて良かったと感じています。
このことはインストラクターの皆さん全員にお伝えしています。

3色パステルアートが社会と繋がるきっかけに
ー資格取得を希望されて受講される生徒さんは、どのような目的を持って参加されていますか?
浜端さん:人それぞれですが、約5割程度の方が何かしらの専門職の方で、介護士さんや保育士さん、保健室の先生もいらっしゃいます。
他には、家族のため(介護中のご両親がいらっしゃるなど)、ご自身のお子さんと一緒に楽しみたい方、そしてアートセラピー自体に興味があるという方です。
アートセラピーは日本では学べる場所が少ないので、アートセラピーのひとつとして、手軽に始めていただける3色パステルアートを選んで来てくださる方が多いです。
また、最近はご自身のセカンドライフとしてお教室をやってみたい、ボランティア活動のために活かしたい、というニーズも増えてきています。3色パステルアートが社会と繋がる足がかりになれば幸いです。
自分に自信が持てるきっかけづくり
ー今後どのようなシーンや場所で3色パステルアートを広めていきたいとお考えですか。
浜端さん:現在インストラクターの皆さんによって様々な形で少しずつ広まっているので、特に誰かに向けてやりたいという限定はありません。
幅広く、今まで絵には縁がなかったけれど、これをきっかけに描けるようになった、あるいは絵を通して自己表現してみたことで、それを「良い」と言ってくれる人がいる。
その経験の積み重ねによってちょっとだけ自信が持てるようになった、心豊かな時間を過ごせた、という方が増えていけば嬉しいなと考えています。
ゼロからでも伴走者がいるレッスン
ー3色パステルアートに興味を持たれた方にメッセージをお願いします。
浜端さん:このページをご覧になっている方は、多少なりとも絵画教室や絵を描くということに興味がおありだと思います。
一方で、絵を描くことは敷居が高いと感じていらっしゃる方も多いと思います。
しかし、3色パステルアートは本当に誰でも描けると自信を持ってお伝えできるほど非常に簡単で、お伝えしたように「絵のレシピ」もご用意しています。
ゼロから一つずつ絵を積み重ねて、インストラクターが完成まで伴走するという方法を取っていますので、少しでも興味がある方は、是非挑戦していただけると嬉しいです。