インドの伝統舞踊・カタック。その奥深さと歴史に魅せられ、日本で学び続けた一人のダンサーが、今その魅力を広めるべく教室を主宰しています。
今回は、川崎市を拠点に活動するカタックダンス教室「Nritya Angan(ヌリティヤ・アンガン)」代表の堤菜穂さんに、その歩みと想いをお伺いしました。
インド古典舞踊カタックとの出会い、そして教室設立へ
私は学生時代から北インドの古典舞踊・カタックを学び始め、もう20年以上が経ちます。
最初に出会ったのは日本国内の教室でしたが、学ぶほどにその深遠さと奥行きに惹かれ、いつしか本場インドに足を運ぶようになりました。
現在は川崎市を拠点に、カルチャーセンターや地域のスタジオでレッスンを行う一方、都内や横浜での公演活動やイベント出演も行っています。
カタックはただの踊りではなく、物語を語り、文化や精神を伝える表現手段です。
その魅力を一人でも多くの人に届けたいという想いから、教室の立ち上げを決意しました。
インドでの師匠のもとでの学びを重ねるうちに、何世代にも渡って受け継がれてきたこの芸術の重みを肌で感じるようになりました。
私の先生、そのまた先生へと続く系譜を知り、その流れの一端を担う責任を意識するようになったのです。
そして、それを自分の中だけに留めておくのではなく、次の世代へ繋げることが自分の使命だと感じるようになりました。
日本人に合わせた、無理のない美しい表現を
私の教室では、日本の方々にもわかりやすく、かつ身体に無理のない形でカタックの魅力を伝えることを大切にしています。
日本の師匠はもともとクラシックバレエを子どもの頃に習っていたこともあり、指先まで洗練された動きを教えていただきました。そこにインド現地で学んだ本場の空気感を融合させるよう意識しています。
インドの舞踊には宗教的な背景や文化的な文脈が色濃く含まれます。
そのため、単純に技術を伝えるだけでなく、演目の背後にある物語や神話、信仰の精神性までも、分かりやすく丁寧に伝えるよう心がけています。
特に大人の方にとっては、無理な動きが怪我に繋がる可能性もあるため、体に優しいカリキュラムで指導しています。
日本人とインド人とでは体格や骨格も異なるため、動きの調整や負荷のかけ方にも注意が必要です。
大人になってから舞踊を始める方も多くいらっしゃいますので、それぞれの体に寄り添いながら、安全で楽しく続けられるよう工夫を凝らしています。
生徒との関わりから生まれる新しい表現
例えば、神様への祈りの場面を踊る時、「大好きな人に手を差し伸べるように」「大切な友達を呼ぶように」と、日本の日常風景に置き換えることで、生徒さん自身が感情移入しやすくなるように工夫しています。
インドの神話や宗教的背景に馴染みがない方にとっては、舞踊の一つ一つの所作の意味を理解することが難しい場合もあります。
そこで、実際の生活に即したイメージで例えることで、生徒さんの中に自然とリアリティや情感が芽生えるのです。
そうすることで、単なる模倣ではなく、それぞれの生徒さんの中から自然と動きや表現が湧き出してくる瞬間があります。
そうした時の変化を見ることが、教える立場として何よりも嬉しいですね。
生徒さんたちの目が輝く瞬間、表情が変わる瞬間に立ち会えることが、私の何よりの喜びです。
これからの展望と伝統芸能への想い
今後は発表の場やイベント出演の機会をもっと増やしていきたいと考えています。練習だけでは得られない経験が舞台にはありますし、多くの人にこの舞踊を知ってもらうきっかけにもなります。
本来はインド古典音楽の生演奏とともに踊るのが理想ですが、日本ではその環境が限られているため、少しずつ演奏家の方との共演の機会も増やしていけたらと思っています。
録音ではなく、音楽家との即興的な呼吸のやりとりの中で生まれる舞台表現は、まさにカタックの醍醐味です。
さらに、カタックに触れたことのない方にも、その入り口を開く活動にも力を入れていきたいです。
体験レッスンやワークショップの開催、他ジャンルとのコラボレーションなど、幅広い形でこの芸術の魅力を広げていけたらと思っています。
興味のある方へのメッセージ
ダンスが初めてという方、体を動かすのが不安という方でも、無理のない動きから始められます。
インドの衣装や音楽とともに、異文化を楽しく体験できる教室ですので、ぜひ一度体験にいらしてください。
カタックは年齢や経験に関係なく、誰でも始められる舞踊です。
日常の中に、少しだけ非日常の時間を取り入れてみたい方。美しい所作に興味がある方。身体を通して文化に触れてみたい方。
そんな皆さまに、ぜひ一度この世界に足を踏み入れていただけたら嬉しいです。インド舞踊の魅力と精神を、一緒に楽しみながら学んでいきましょう。