伝統の技と精神を次世代へ:全日本伝統居合道連盟 神崎氏インタビュー

「刀を用いた古武道から、現代を生きる知恵と力を学ぶ」

全日本伝統居合道連盟では、江戸時代以前から受け継がれる居合道の技と精神を大切に守りながら、世代を超えた人間形成の場を提供している。同連盟の活動を通じて、日本の伝統文化がいかに現代社会に貢献できるのか、事務局長の神崎氏に詳しく話を伺った。

全国に広がる伝統居合道の拠点

ーどの地域でどのような活動をしてる団体なのか?

当連盟は東京都墨田区に本部を構え、東京、千葉、埼玉、栃木、長野、兵庫、大阪、奈良、大分の全国10支部で活動を展開しています。私たちが取り組む居合道は、真剣を用いた古武術です。室町時代から伝わる形や江戸時代前後の流派を中心に、伝統的な技を今日まで大切に継承してきました。

特筆すべきは、私たちの連盟が扱う居合道の多様性です。無外流、新陰流、英信流など、数多くの流派が存在し、小規模なものまで含めると20から30の流派があります。各流派にはそれぞれの特徴や歴史がありますが、当連盟では共通の基盤として8本の制定の形を定めています。これにより、流派の違いを超えた交流や、全国大会の開催が可能となっています。

また、実践面では型の稽古に加えて、竹や畳を巻いたものを用いた試し切りなども行っています。これは単なる威力の確認だけでなく、刀の扱いの正確さや技の完成度を確認する重要な修練の一つとなっています。

伝統継承と人間形成を軸とした活動理念

ー活動を始めるきっかけや経緯について

当連盟は2006年に、古武道界で高名な無外流宗家である甲斐泰心先生を中心に設立されました。設立の背景には、急速に変化する現代社会の中で、伝統的な居合道の技と精神を確実に次世代へ継承していきたいという強い思いがありました。

特に重視しているのが人間形成です。古来より伝わる「五常の徳」の精神を基盤に、礼儀作法を重んじながら、基本に忠実な指導を行っています。居合道は実践的な武術である一方で、精神修養の道でもあります。形の修練を通じて、集中力、忍耐力、判断力を養うとともに、道場での作法を通じて、礼節や謙虚さを身につけていきます。

私たちの指導方針の特徴は、過度な厳しさを避け、各人の成長に合わせた段階的な指導を心がけている点です。特に初心者や若年層に対しては、居合道の楽しさや魅力を感じてもらうことを第一に考えています。

世代間交流と社会貢献を目指して

ー団体の活動を通して解決したい社会課題とは?

当連盟が特に注力しているのが、世代間の交流促進です。現代社会では、異なる世代間の対話や交流の機会が減少傾向にありますが、道場では子供から高齢者まで共に稽古をすることで、自然な形で世代間の相互理解を深めることができます。

また、近年では武道ツーリズムという新しい取り組みも始めています。これは国内外からの参加者に向けて、1週間や3日間といった短期間のプログラムを提供するもので、居合道を通じた文化交流や地域活性化に貢献しています。海外からの参加者に日本の伝統文化を体験してもらうことで、国際理解の促進にも役立っています。

さらに重要なのが、自己責任と主体性の育成です。現代社会では「自分発信」という言葉がよく使われますが、私たちが目指すのは「謙譲」の精神に基づいた自己表現です。他者の意見に耳を傾け、自分の言動に責任を持ち、謙虚な姿勢で学びを深められる人材の育成を目指しています。

道場での指導では、特に子供たちに対して、礼儀作法と共に人との関係性の大切さを丁寧に説明しています。武具を扱う際の約束事を通じて、責任感や協調性を自然に身につけられるよう工夫しています。

各世代に寄り添った指導アプローチ

ー活動の中で意識していることとは?

私たちの特徴は、各世代の特性や目的に応じて、きめ細かな指導を行っている点です。子供たちに対しては、将来の「原体験」となるよう、楽しさと安全性を重視しています。厳しすぎる指導でトラウマを作らないよう細心の注意を払い、居合道を通じて自信と達成感を得られるよう支援しています。

高齢者に対しては、健康増進の視点を重視しています。特に奈良支部では、地域の高齢者向けに無料の居合体操を実施しています。チャンバラや時代劇の文化に親しみを持つ高齢者の方々に好評で、体力維持と共に社会参加の機会としても機能しています。

働く世代に対しては、現代社会特有のニーズに応える指導を心がけています。私自身も企業に勤めていますが、居合道での修練は仕事における集中力や持続力の向上に大きく貢献していると実感しています。型の修練を通じて培われる集中力と精神力は、ビジネスシーンでも大いに役立つものです。

今後の展望:オンライン指導と人材育成

ー今後、活動を行う中で強化していきたい取り組みとは?

今後は主に2つの方向性で活動を強化していく予定です。

1つ目は、オンラインを活用した遠隔地への指導展開です。特に子供たちに向けて、場所や時間の制約を超えて、楽しみながら学べる環境を整備していきます。コロナ禍を経て、オンラインでの指導にも手応えを感じており、これを機に新しい指導形態として確立していきたいと考えています。

2つ目は指導者の育成です。現在、カルチャーセンターと連携して「育道カリキュラム」という育成プログラムを展開しています。このプログラムでは、技術指導だけでなく、各世代の特性を理解し、適切な指導ができる人材の育成を目指しています。特に若い世代の指導者育成に力を入れており、伝統の継承者として活躍してもらいたいと考えています。

これらの取り組みの根底には、日本やアジアに伝わる「五常の徳」のような美徳を現代社会に活かしていきたいという思いがあります。思いやりの心を持ち、社会に貢献できる人材を育成することが、私たちの使命だと考えています。

生きる力を育む居合道の魅力

ー入会を検討されている方に伝えたいメッセージ

居合道は、単なる武道や運動の枠を超えた、総合的な人間力を育む場です。真剣を扱うことで養われる工夫する心は、日常生活における問題解決能力の向上にもつながります。手先の器用さや、物の扱い方における強弱の調整など、生活に直結するスキルを自然に身につけることができます。

また、集中力の向上や体幹の強化、姿勢の改善といった身体的な効果に加え、礼儀作法の習得を通じた人格形成まで、現代社会を生きる上で重要な要素を総合的に学ぶことができます。特に、自分の行動に責任を持ち、周囲との調和を図りながら目標に向かって努力する姿勢は、どのような場面でも役立つ大切な資質です。

私たちは、厳しさだけを追求するのではなく、それぞれの目的や個性に合わせた指導を心がけています。伝統を守りながらも、現代のニーズに応える柔軟な指導を通じて、より多くの方に居合道の魅力を知っていただければと思います。興味をお持ちの方は、ぜひ各道場にご相談ください。